「出産してから、安藤さんはいい意味でカドが取れて、よりナチュラルな魅力が増したように感じます。昨年話題となった『ある男』では、さらにアップデートされた彼女の泣きの演技が話題を呼びました。冒頭の印象的な涙のカットだったのですが、これを撮るにあたって、監督からは何度もダメ出しをくらい、『この仕事に自分は向いていない。これで終わりにしようと思う』と引退も考えたそうです。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を取った『万引き家族』以後、子育てに専念するため仕事をセーブしており、『ある男』に臨む際にマインドセットを変えようとしてバランスを崩してしまったと語っていました。そんな自らの変化の時期に出会ったのが、安藤さんの状況と重なる劇中の里枝という役だった。この作品でまた一皮むけた印象を持った人も多いと思います」(前出の映画ライター)

 ドラマウオッチャーの中村裕一氏は、彼女の魅力についてこう分析する。

「『百円の恋』や『万引き家族』で見せた研ぎ澄まされたシャープで骨太な演技から、ストイックで少し近寄りがたい雰囲気の印象を抱いていた人も多いでしょう。一方で『まんぷく』や今回の『ブラッシュアップライフ』のようなハートウォーミングでコミカルなドラマでは、懐の深い、しなやかで、味のある演技と柔和な表情を見せてくれています。彼女にとってプライベートでの大きな出来事といえば、やはり17年の出産でしょう。身をもって生命の尊さに触れ、守るべき家族を手に入れたことが、人間的にひと回りもふた回りも彼女を成長させ、それが良い具合に仕事にもフィードバックされているのではないでしょうか。今の彼女の演技からは、仕事と同じくらい1人の人間としての生活を大切したいという、ワークライフバランスの良さを感じます。子育てから少し手が離れた頃、また攻めた役柄で鋭い演技を披露してくれることにも期待したいですね」

 6月には『万引き家族』の是枝裕和監督とタッグを組んだ主演映画「怪物」の公開も控えている。天才女優がどんな化学反応を起こすのか、今から待ち遠しい。(高梨歩)

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