さらに、「メスを入れる角度など細かな部分まで写真で撮影し、資料を送ってくれます」。

 なるほど。そこまで徹底して解剖実習の現場を再現しているからこそ、リアルに描くことができるのですね。解剖実習を実際に見ることなく、マンガの中で細部まで再現できる一流のマンガ家のすごさを身をもって感じた瞬間でした。

『Dr.Eggs』は医学生の私生活を描写する部分が多く、マンガではクラブ活動のシーンが大きく取り上げられます。医療系のドラマなどを考えると、病院での緊迫したシーンがメインになると思うのですが、そこにも理由がありました。

「知り合いの医学部教授の話を聞くと、医学生で大事なのは一人にならないこと」

 三田先生が話した意味はこうです。地方の医学部に行くと、都会から親元を離れて進学してくる学生が多い。突然のひとり暮らしと、医学部の膨大な勉強量で、精神をやられる学生もいる。まずは友達を作って一人にならないことが重要である、と。これは『Dr.Eggs』の中に登場する古堂教授の言葉にも出てきます。たしかにその通りで、医学生になると同学年の横のつながりだけではなく、上下のつながりも大事になります。その人脈は普段の試験や医師国家試験に役立つだけでなく、医者になったあとも相談できる仲間として重要になるのです。

 三田先生との対談の最後に、私がずっと気になっていたことについて質問をしました。

 私が専門とする皮膚科は、いまだテレビでドラマ化やアニメ化されたことのない分野です。救命救急などと比べると、内容がやはり地味なところがあるため、物語の主役としては難しいのではないかと、ずっと考えていました。そこで、思い切って皮膚科をマンガにするにはどうしたら良いか?と聞いてみました。

 三田先生の答えはこうでした。

「皮膚科そのものを追うのではなく、主人公のキャラクターや主人公の目を通して日常や環境を描く。その主人公が皮膚科であれば物語となる」

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三田先生が皮膚科をどう描くのか