行動も起こした。高1の夏休みには自ら見つけた保育ボランティアに参加し、週末には恵比寿や代官山にある美容学校や料理学校の見学に行った。

「あのころは、もう一人の自分がいたような気がします。高校にいる自分をどこか置いてきぼりにして『あとちょっとがんばれば、大丈夫だから』って言い聞かせているような。でなきゃ、あんなふうに行動できなかった」

 そして高2の秋、運命の扉が開く。

 写真家の藤原江理奈はその日、仕事帰りに山手線に揺られていた。恵比寿駅で制服姿の岸井が乗ってきた。バリスタの資格を学べる専門学校を見学した帰りだったらしい。その瞬間、強烈に惹(ひ)かれるものを感じた。

「正面から見たときは可愛らしかったんですが、ドアにもたれて外を見ている横顔はちょっと不機嫌そうというか、不機嫌な子ども、みたいな表情があって、魅力的だったんです」(藤原)

 普段、スカウトはもちろん、街で人に声をかけることなどない。でも、この子の写真を撮ってみたい。声をかけるべきか。恵比寿駅から降りる予定の渋谷駅までの3分間の葛藤を、いまも鮮烈に思い出すと藤原は言う。岸井も回想する。

「『被写体になってほしいです。名前を検索してもらえば出てくるので!』って名刺を渡されたんです。ぽかーんとしていたら、2人の間で電車のドアがプシュ~!って、閉まりました」(岸井)

 家に帰って調べると藤原は北野武やジョニー・デップのポートレート、小栗旬の写真集『小栗ノート』を撮っている有名な写真家だった。母に相談すると「すごいじゃない」と言われ、2人で藤原に会いに行った。映画が好きで、母と演劇をよく観ると話すと、「演技をやってみたら?」と勧められた。紹介された事務所に行くと、即所属が決まった。この展開には藤原も驚いたという。

「写真家人生で後にも先にも、初めてのことでした。でも『演技に興味がある』と言われたとき、間違いなく映像の世界で彼女を欲しがる人はいっぱいいるだろうな、と予感はあった」(藤原)

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