岸井は1992年、神奈川県秦野市に生まれた。
3歳上の兄がいる。父は会社員で、母はパートタイマー。体形は母に、顔は父に似ているらしい。岸井いわく父は「変わり者」。釣りとプログレ音楽好きで幻想的なウィリアム・ブレイクの絵を好んだ。母の好みはもう少しポピュラーで、岸井は母に連れられてルネ・マグリット展やアンリ・ルソー展、劇団四季のミュージカルを楽しんだ。小柄な岸井にピッタリだったのが器械体操。小1から中3まで体操クラブに通って続けた。
同時に取り憑(つ)かれたように夢中になったのが「ドラえもん」の映画シリーズ。「のび太の創世日記」を観たとき、自分がいるコンクリートの地面の下に、はるか昔にあったものに思いが至り、興奮に震えた。映画は現実とは違うけれど、でもふたつの世界は地続きだ。そう感じた瞬間だった。
実写映画との出合いは中学時代。初めて友人と映画館で観た「悪魔の棲(す)む家」だ。ホラーではあるが実際の事件をモデルにし、日常描写がリアルに描かれている。「ドラえもん以外にも、もっとリアルに別の世界がある!」と知った。高校に進学し、さらに映画好きが加速する。なぜなら、高校に居場所がなかったのだ。
「ギャルっぽくなくて真面目そう」という理由で選んだのはスポーツに力を入れている高校だった。初日から「間違えた!」と悟った。すでに器械体操はやめていて、特にやりたいスポーツもない。校則も厳しく、軍隊のような雰囲気もあった。「ここじゃない」という思いが押し寄せた。それでも卒業はしなきゃいけない。それまでに何かを、自分らしく生きられるところを見つけなきゃ。
高1にして、将来を探す旅が始まった。
■電車で写真家からスカウト 演技の道へと進む
まず求めたのが映画のなかの居場所だ。「ダークナイト」「メメント」の監督クリストファー・ノーランや「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」の監督ガス・ヴァン・サントの世界に没入した。映画のなかにいるときは、孤独も忘れられる。