柔道(世界選手権、2019年、東京都・日本武道館)撮影:高須力
柔道(世界選手権、2019年、東京都・日本武道館)撮影:高須力
この記事の写真をすべて見る

*   *   *
 スポーツ写真へのほめ言葉として、よく「この写真は躍動感がある」と言われる。しかし、そこに写る選手の動きは止まっている。なのに、人はなぜ「躍動感」を感じるのか、高須力さんは真剣に考えた。

【高須力さんの作品はこちら】

「躍動感のある写真というのは、この瞬間の前はこうだったんだろう、とか。後はきっとこうなるだろうと、想像しやすい瞬間をとらえた写真だと思うんです。なので、選手が今にも動きだしそうだな、というのを表現したい。それは動きだけではなくて、選手の気持ち、感情がこの瞬間に動いているんじゃないかって思わせるような写真。ぼくはそういう写真がすごく好きなんです」

■一日1000枚撮っても

 通常、スポーツ写真の世界では1/2000秒でシャッターを切るという。しかし、高須さんはそれよりも遅い「1/500秒」にこだわる。

「被写体がブレて写ることもありますが、そのブレが表現につながるというか、ブレのなかメッセージがあるんじゃないかな、と思う。ブレのある写真を見た人が何かを感じてくれるような。それをテーマとして撮ってきた」

陸上(READY STEADY TOKYO、2021年、東京都・国立競技場)撮影:高須力
陸上(READY STEADY TOKYO、2021年、東京都・国立競技場)撮影:高須力

 3月7日からキヤノンギャラリー銀座で開催する写真展「THE AMBIENCE OF SPORTS 2018-2022 刹那の後先」の作品では、さらに遅いシャッター速度に挑戦した。

 作品に水泳の飛び込み選手が空中で回転する様子を横から写したものがある。

「これは1/250秒でシャッターを切っています。回転の中心はほぼ止まっていますが、周囲は回って見えます。流し撮りをするときには1/8秒、1/4秒、あと1秒でも撮ったりして、写真がどう変化するのか試した」

 しかし、それが成功するとはかぎらない。

「なので、一日1000枚撮っても、そのなかで使えるものが1枚あればいいや、くらいの気持ちで撮っています」

 展示作品の競技は計20種目。競泳、クライミング、サッカー、サーフィン、柔道、セパタクロー、飛び込み、ボクシング、マウンテンバイク、モトクロス、ラグビー、ラフティング、陸上、レスリング、F1……。

「正直、この競技に力を入れて撮った、というのはないです。ぼくは行ける機会があるときにいろいろな現場に行くように心がけていて、そこで自分が撮りたいと思った瞬間を撮っている」

次のページ
依頼仕事とは決定的に違う