■依頼仕事とは決定的に違う
サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会の写真もある。
ゴールを決めて喜びを爆発させるアルゼンチンのメッシ選手。さらに歓喜で揺れる観客席を大きくブラして撮影した。
メッシ選手の姿は線審と他の選手に少し隠れて目立たない。「でも、それがいいと思うんです。でないと、普通のサッカー写真になってしまいますから」。
W杯では20試合ほど撮影したが、展示はこの2枚に絞った。もう少し写真を増やそうとも考えたが、「他の写真と違いすぎて入れられなかった」と言う。
展示写真の「8~9割は自分が撮りたいから撮りに行ったもので、誰かに依頼されて撮ったものではありません」。
さらに、写真展が目的の写真と、依頼仕事で写した写真とでは「決定的に違う」とも言う。
「撮影に入る段階から気持ちのモードがまったく違います。大きな大会は自分1人の力で行ける現場ではないですから、そこにぼくに派遣してくれた方々の期待に応える写真をきちんと撮らなければならない」
特に若いときは「やっぱり『大きな祭りの舞台』に立たなければ」と思っていた。
しかし、歳を重ねると、「ぼくがいなければ写真が残らないような現場っていうのも、意外といいな」と、思うようになった。
「もちろんワールドカップも取材します。でも、慣れたこともあって、昔ほどの感動はなくなった。今回の取材ではピッチ脇にカメラマンが200人くらいいた。となりの人との距離が近すぎて、レンズも思うように振れない。ある意味、撮っている被写体がモデルなのか、メッシかの違いだけであって、写真撮影会と一緒という感じもする。写しているのと同じ構図の映像がテレビで全世界に中継されていますし」
■人と違うところに目がいく
高須さんは続けた。
「それに報道だと、ゴールした瞬間とかを伝えるじゃないですか。もちろん、それはニュースとして正しいあり方だと思います。でも、ぼくは写真展を開くことを目標に撮っているフリーの人間ですから、マスメディアがあまり扱わないテーマ、選手の動きが試合結果につながらないところを攻めていく。それがぼくのスタンスです」
マウンテンバイクの競技では、東京オリンピック2020の前、山梨県で行われた大会を撮影した。
「この日、撮っていたのは専門誌を含めて数人だけでした。次の日はオリンピック種目競技の選考会を兼ねたレースだったので結構、新聞の取材も来たらしいんですが、ぼくが訪れたダウンヒル競技ではほとんどいなかった。ぼくは他の人があまり撮っていないものを撮るのが好きなんです」
高須さんは「昔から少しひねくれているというか、なんか人と違うところに目がいっちゃうんですよ」と言い、笑った。
「要はステージの大きさで勝負するのではなくて、どういうコンセプトで撮影するか。それを伝えたくて写真を撮っている。今はそういうことに力を入れている」