■昔の写真に驚いた
その姿勢が、あえて遅めのシャッターを切る撮影スタイルにも表れる。
20年ほど前、カメラがフィルムからデジタルに切り替わると、それまでより速いシャッターが切られるようになった。デジタル写真はパソコンの画面で大きく拡大されてチェックされるため、ブレが目立つからだ。ピンボケもすぐにわかる。
「みんな、ブレやピントについて、やけにうるさくいうようになった。ちょっとでもピントがズレていると、『ガリピン』じゃないからだめだ、とか。フィルムで写していたころは少し写真がボケていたって平気で誌面に使っていたのに。なんでそんなこと言うんだろう、と思いつつも、ぼくもみんなと同じように1/2000秒でシャッターを切っていた」
ところが10年ほど前、自宅にあったスポーツ雑誌『Number』(文藝春秋)のバックナンバーをパラパラとめくっていると、改めてフィルム時代の写真との違いに驚いた。
「ピントが合っていない写真とか、ブレている写真もドーンと見開きで普通に使われていた。えーっ、と思いました。しかも、その写真がぜんぜん嫌な感じがしなかった」
一方、同じようにデジタルカメラで写したピンボケ写真は見られたものではなかった。
「ピントのズレ量はほぼ同じなのに、なんで雑誌の見開きは嫌な感じがしないのに、自分がデジカメで撮ったピンボケ写真はただのピンボケなんだろう」と、考えた。
被写体が完全に止まっている写真では、ピントがボケているとそれが際立って見える。しかし、被写体ブレとピンボケが同時に発生すると、人間の目はそれを見分けられないので、ボケが気にならなくなる。要するに錯覚だ。
高須さんは試しに遅めのシャッターを切り、意図的に被写体ブレをつくってみると、意外と結果がよかった。「この手法は使えるな、と思いました。それで1/500秒を使うようになった」。
「以前は、すごくいい写真なんだけれど、ピントが少しズレて使えないものがあった。それが1/500秒だと、ぎりぎりセーフ、ということが結構ありました。もちろん、できるだけ手ブレを起こさないように丁寧に撮る必要があります」
■自分に負荷をかけて撮る
さらに、1/500秒をベースに撮影する理由がもう一つある。
「自分に負荷をかけて写真を撮る習慣をつけよう、ということをずっとやっています」
最近のデジカメは高感度性能が非常にいいため、比較的暗いシーンでも1/2000秒でシャッターが切れる。
「人間って、便利なものに慣れてしまうと、それがなくなった途端、今まできたことができなくなってしまうことがよくある。カメラの進化もそうで、自分で撮っているつもりが、いつの間にかカメラに撮らされている可能性がある。でも、それって自覚症状がない病気みたいなものだから、自分からカメラに助けてもらう部分を減らさないと、写真が下手になってしまう」
逆に、写真が上手になるには「どれだけ多くの写真を見るか。どれだけ多くシャッターを切るか」だと、高須さんは言う。
「あと人間そのものが成長しないと、多分写真も変わらないんじゃないかな。そちらのほうも挑戦していかないと、この次、5年後に写真展はできないと思うんです」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】高須力写真展「THE AMBIENCE OF SPORTS 2018-2022 刹那の後先」
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