イラスト:石山好宏
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 不動産業界にIT化の波が押し寄せている。それまで1カ月以上かかっていた物件の買い取り価格査定と売買契約を、AIの力によって最短2日で可能にした。AERA2020年2月24日号は、IT化で業界に革命を起こした不動産テック企業を紹介する。

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 IT化が20年は遅れている──。不動産業界は、他産業と比べてそう表現される。

「アポを取るのは人海戦術。電話をかけまくって、次は足で稼ぐ。売買の価格を決めるのも売り手と買い手、仲介業者のコミュニケーションで、テクノロジーの出る幕はありませんでした。それで十分に儲けられたのがこれまでの不動産業界です」

 東京都内で不動産仲介業に従事する男性(46)は自らの仕事をこう表現する。取引1件あたりの単価が大きいため効率が重視されず、IT投資が進んでこなかった面があるという。

 そんな不動産業界でもついに、人工知能(AI)が革新を起こし始めた。物件の価格をAIが「査定」したり、隠れた災害リスクを見える化したり。価格決定や物件の裏情報といった、これまで不動産業者が独自のノウハウとしてきた「ブラックボックス」のフタが、次々に開けられているのだ。

 ITを使って新たなビジネスモデルを生み出し、仕事のやり方を変える。業界では、このような変化を「不動産テック」と呼ぶ。その一例が、2018年創業の不動産ベンチャー「すむたす」だ。

 すむたすは、マンションの査定を依頼すると最短1時間で買い取り価格を提示し、2日で売買契約を締結し現金を振り込むサービスを手掛ける。

 驚異的なスピードを実現しているのが、AIによる査定だ。独自のアルゴリズムにより、築年数や間取り、広さなどの物件情報はもちろん、日当たりや眺望、そのエリアの平均年収や人口動態、周辺の店舗状況まで考慮して買い取り価格を決める。

 人間は、災害の発生などAIがまだ把握していないリアルタイムのニュースをチェックするだけ。買い取り前には社員が物件を訪れて現況確認をするものの、査定時の申告内容に誤りがないかを確かめるだけで、物件の状態によってAIが決めた買い取り価格を下げることはないという徹底ぶりだ。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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