病気の痛みや苦しさ、手術への恐怖やリハビリのおっくうさ。そんな患者の心を和らげ、前向きにする犬が川崎市の病院にいる。笑顔と勇気をくれるモリスは、今や治療に不可欠な存在だ。勤務犬としてのモリスの仕事ぶりや勤務後の過ごし方を取材した。
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きれいにトリミングされた白い毛、つぶらな瞳。ふさふさのしっぽを揺らして、1匹のスタンダードプードルが聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)の廊下をてくてくと歩く。同院緩和ケアチームで週2日勤務するモリスくん(4)の「回診」だ。
「おー、モリス」
「今日はどこに行くの?」
同僚や入院患者たちからそんな声がかかる。笑顔でカメラを向ける人もいる。今ではこれが同院の日常だ。
衛生面が重視される病院を犬が歩くなんて!と思うかもしれないが、心配無用。
「犬の細菌や汚れを調べてもらったら、洗っていない研修医の服のほうが汚かったのです」
と、同院の北川博昭院長(64)は苦笑する。
モリスが着任したのは、2019年2月。初代勤務犬だったミカ(9)の引退を受け、バトンを引き継いだ。
1日に平均6件ほど患者と面会し、治療に寄り添う。たとえば、痛みでベッドから出られない患者が起き上がるきっかけをつくったり、手術への恐怖心を和らげるために手術室まで同行したり。こうした取り組みは「動物介在療法(AAT)」と呼ばれている。
同院で放射線治療中の小澤信子さん(64)もモリスとの交流を楽しみにしている。小澤さんの膝の上に顔をのせてくつろぐモリスに気持ちが和み、治療に前向きに取り組めるようになったという。
北川院長はモリスと患者の交流について、単なる触れ合いではなく、医療だと強調する。
「犬に会うことだけが目的になるのではなく、治療やリハビリといったゴールに結びつかなければいけません。ただそこに犬がいるだけではセラピー(療法)とは言えないのです」
患者とモリスのAATには担当医や看護師も同席し、やり取りから次の目標や治療を模索する。犬を介在させながら、人間たちは知恵を絞る。その効果は、主治医と看護師、そして勤務犬の3者の思いが一つになって初めて実を結ぶのだ。