勤務犬がのびのびと活動するために欠かせないのが、「ハンドラー」と呼ばれる管理者だ。モリスのハンドラーは同院看護師の竹田志津代さん(39)と大泉奈々さん(33)の2人が交互に務めている。竹田さんは言う。
「患者さんとモリスが楽しめる空間を作るのも私たちの役目です。モリスからストレスのサインが出ていれば、リラックスできるように促したり、疲れているときは面会の日程を変えたりもしています」
モリスの場合、ストレスを感じるとあくびをしたり、鼻水を垂らしたりすることもあるという。
リハビリに消極的だった患者がモリスとの交流をきっかけに積極的になるなど、治療の効果は大きい。だがモリス1匹だけでは関われる患者数や活動時間に限界がある。
「2匹で交互に勤務させるといったこともしてみたいですが、適性のある犬は意外と少ないのです」(北川院長)
金銭面の負担もネックだが、何より大切にしたいのは、犬が幸せに暮らせる環境だ。モリスの健康管理は日本介助犬協会が行い、勤務が終われば竹田さんらと一緒に帰宅。プライベートタイムを満喫する。信頼できるハンドラーと過ごすことが、治療の充実には欠かせない。竹田さんは言う。
「一朝一夕では、AAT中の些細な変化に気付けません。言葉がわからない分、日々のコミュニケーションが大切なんです」
生半可な気持ちで“雇用”はできない。患者と向き合うのと同じくらい、犬の人生にも寄り添っている。(編集部・福井しほ)
※AERA 2020年1月27日号