矢野:例えば僕の塾の出身の子の中には野球チームのエースで、大学まで野球をやりたいから、という観点で選んだ子がいます。やりたいことがはっきりしている場合はいいですが、そうでなければ小学生で大学決めちゃっていいのかなと思う気持ちも個人的にはありますね。

──思考力入試など、中学入試の形も多様化しています。

矢野:大学入試改革の話が出てから、やたらと「思考力」という言葉が使われ始めましたよね。僕は新型入試には批判的です。しばらく中学受験では4教科中心の入試が行われてきた。25年ほど前は、2教科、つまり算国しか勉強しない子と4教科勉強する子に分かれていたんですが、いろいろな歴史を経て4教科型になって落ち着いてきた。プレゼンテーション入試とかレゴブロック入試とか様々ありますが、学校に「うちはこういう姿勢を持った子どもたちが欲しいからこの選抜手法を採択する」という信念があるならいいですよ。でも人集めのためや、公立中高一貫校の併願校になるために思考型の入試を取り入れるのは、違うと思います。

安浪:実際学校は、思考力入試やAO入試で入れた子も、一般で来た子たちと一緒に育てていかなきゃいけない。だから結局AOとか思考力で合格する子は、一般でも受かる子たちなんですよね。AOでも英検2級なら無条件で合格とか、はっきり言ってるところもありますから。

おおた:僕は新しい入試が出てきたことは歓迎しています。なぜかと言うと、4教科入試のルールの中では力を発揮できない子ってやっぱりいるわけです。それは能力がないのではなく、その形式の中でインプット・アウトプットするのが苦手なだけ。今までは偏差値の高い子が上からいい学校の合格を奪っていって、「自分たちは余った席に座るしかない」と思ってしまっていた子が、「僕の得意なレゴでこの学校に入れたんだ」って堂々と通えるようになる。それに、プレゼンテーション入試にしても基礎学力はちゃんと見るので4教科の勉強は必要です。かつてなら負け組気分を抱えてしまっていた子たちに別の角度から光を当ててあげられる、新しい物差しが用意されたと僕は捉えています。

○おおた・としまさ(中央):1973年、東京都生まれ。教育ジャーナリスト。リクルート退社後、教育誌の企画・編集に従事。近著に『大学入試改革後の中学受験』

○安浪京子(やすなみ・きょうこ、右)/1976年、岐阜県生まれ。算数教育家・中学受験専門カウンセラー。著書に『中学受験 最短合格ノート』(朝日新聞出版)など

○矢野耕平(やの・こうへい、左):1973年、東京都生まれ。大手進学塾勤務後、中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表。共著に『早慶MARCHに入れる中学・高校』

(構成/編集部・高橋有紀)

AERA 2020年1月27日号より抜粋

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