「10年前は宿泊施設からの依頼が圧倒的だったが、最近は住宅で増えている。だが、駆除するのは大変で、業者の相場は十数万円以上。駆除できないまま深刻化してしまった結果、南京虫の数が増えていることが考えられる」と小松さん。
前出の女性は今年9月初めの朝、足首に数十カ所の虫刺されがあることに気付いた。ノミかダニだと思った。まもなく足首から広がるようにふくらはぎ、背中、首の後ろまで全身が刺されるようになった。
就寝中に刺されているようだ。長袖、長ズボンの服を着ていても、服の下に潜られる。タイツや長靴下など計3枚をはいて完全防備で寝たつもりでも、布地の一番薄い部分を刺された。
「火の付いたような激しいかゆみが、一日に何度も何度も、荒波のように押し寄せてくる。ノイローゼになりそうです」
100カ所以上刺され、かきむしった患部は、「赤紫のお花畑みたい。自分の肌じゃないみたいな、ざらざらの花畑」(女性)。この2カ月で使ったかゆみ止めは4本に上る。
10月初め、敷布団のそばにある押し入れを深夜から朝4時まで見つめた。すると、小さな虫が出てくるのを確認した。ネットで調べ、南京虫ではないかと疑った。
「南京虫先進国」のアメリカでは、自宅に南京虫がいるかどうかを調べるトラップ(わな)が使われている。雑誌「ナショナルジオグラフィック」のホームページで作り方を調べ、置いてみた。南京虫は寝ている人間の呼吸を感知し、忍び寄る。水に砂糖とイーストを混ぜて二酸化炭素を出しておびき寄せる仕掛けだ。すると一晩で1匹、わなにかかった。すぐに業者を依頼、10月下旬に6センチほどの卵の集まりを駆除してもらった。処置のもらしがないか、3週間は経過観察が必要だという。
「家の床や壁に、枯れ葉のくずが見えたようだった。凝視すると南京虫。気配を感じるだけで、かゆくなります」
卵の集まりがあった押し入れに収納していた洋服の多くを処分したという。
不思議なこともある。同じく刺される被害に遭った高校2年の息子(16)よりも、女性の方が刺される回数が圧倒的に多いのだ。同じく南京虫の被害に遭った知人宅でも、母親ばかりが刺されたという。
実は、南京虫の誘引剤に使われるニオイ成分の「ノナナール」は、女性の加齢臭の主成分として知られる。はっきりとした統計があるわけではないが、女性は南京虫が潜んでいないかより確認を心がけた方がよさそうだ。(ライター・井上有紀子)
※AERA 2019年11月11日号より抜粋