各民間試験の情報は、学校に通知される仕組みにはなっておらず、教員が情報収集しないといけない。そのため、教員や学校間で情報格差も生まれている。

記者も取材にあたり、各民間試験のサイトにアクセスしてみた。ところが、「いつ、どのエリアで試験が実施されるか」という基本情報に、1回の検索で到達できたのはわずか。幾重にも検索しないといけなかったり、サイト内を探しても情報に到達できないケースも複数あった。

混乱にさらに追い打ちをかけるのが、大学側のスタンスだ。民間試験の活用は、各大学の判断に委ねられている。東北大学のように利用しない大学もあれば、出願資格にする大学、入試に加点する大学もある。加点の方式もさまざまで、詳細の決まっていない大学も多い。

試験の事業者はどんな状況なのか。多くの受験者が集中すると予測される、ジーテックと英検の両者は8月、会場確保のための需要把握に動いていた。

昨年、文科省は当時の高校1年生を対象に「どの民間試験を受けたいか」というニーズ調査を行ったが、詳細が決まらないなかでの実施だったため、ジーテックは、あらためて全国の高校に受験予定者数の調査を依頼した。英検担当者はこう胸の内を明かした。

「例えば北海道大学は、民間試験を利用しないと表明しています。そうすると道内の生徒がどれだけ民間試験を受けるのか。需要が読めないんです」

 複数の民間試験を利用することについては、英語教育の専門家からも多くの問題が指摘されている。京都工芸繊維大学の羽藤(はとう)由美教授(63)は言う。

「一口に『英語力』といっても、それぞれの試験が測る能力は同じではない。今回の制度は、マラソンと50メートル走の成績を比べて、走力の優劣を決めるようなものです。セファールと成績の対応づけも各事業者が自己申告したもので、第三者による科学的な検証が行われていない。さらに一部の試験については、対応づけの前提となる『標準化』がきちんとなされているかも疑問です」

 標準化とは、同じ能力の人がある検定試験を受けたときに、どのレベルのどの回を受けても同じ成績になるような処理をすること。これができていないと、今回の民間試験自体が成立しない。6月、羽藤教授ら大学教員が中心になって、英語の民間試験の利用中止を請願したのは前述のとおりだ。

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