「議論を聞いているうちに、文科省の人に思いを伝えずにはいられなくなりました。場違いかなと、少し思いましたけど」
異例の行動に出たのは高校生だけではない。全国約5200の国公私立高が参加する「全国高等学校長協会」も、7月下旬、「英語の民間試験への不安解消」を求める要望書を文科省に提出。「不安を払拭できる実施体制が整うまで見送るべき」とも訴えた。同協会長の都立西高校・萩原聡校長(58)によると、文科省に要望を出すのは「極めて異例」のことだという。
英語民間試験に何が起こっているのか。民間試験は、高校3年の4月から12月の間に2回まで受験できる。各試験の成績は、英語力の国際指標とされる「CEFR(セファール)」に当てはめて、6段階で評価される。
校長協会がこれまで一貫して求めてきたのは、公平性を前提に、「生徒が希望する検定を、希望する時期に、希望する場所で受験できる」ことだ。
ところが、公平性ですら担保できない状況だ。47都道府県で実施が予定されているのは、GTEC(ジーテック)と英検の二つだけ。生徒の居住地域によって試験会場までにかかる移動の時間や費用の負担に大きな差が出そうだ。
受験料も試験によってまちまちで、2万円以上する試験もある。受験生は希望する試験を本番前に練習として受けることも想定され、回数を重ねることができる裕福な家庭の生徒が有利になる。
入試の「実質的な早期化」で、生徒たちの学校生活も損なわれようとしている。
萩原校長は言う。
「発表されている検定試験日の中には、インターハイの開催日と重なっているものもある。AO入試(総合型選抜)の生徒は6月ごろまでに受験しないといけないため、民間試験をとるか、インターハイをとるかの選択を余儀なくされる。高校3年の1学期は、生徒にとって集大成となる部活の大会や行事が目白押し。頭の痛い問題だ」
9月には、英検「S‐CBT」が20年4月から7月受験分の有料での予約申し込みを受け始める。にもかかわらず、いまだほかの試験の詳細がわからない。
「遅くとも高校2年の夏休み前までには、どんな試験があり、いつどこで開催されるのかを生徒に説明したかった。9月からは進路指導も本格化する。具体的なことを説明できず、各学校は非常に困っている」(萩原校長)