前例踏襲型の非効率な活動で、親たちを悩ませるPTA活動。役員などを経験した人の中からも、「改革は無理。別組織にする必要がある」との声が上がる。なぜPTAは変わらないのだろうか。ライター・黒川祥子氏がリポートする。
【写真】昨年11月に行われた日本PTA全国協議会創立70周年の記念式典
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その男性(49)は、うめくように言葉を発した。
「PTA会長を4年やりましたが、追い詰められて、自殺を考えるまでになりました」
九州地方に住む男性は、住宅街にある大規模小学校で、副会長を2年、会長を4年務めた。今春、娘の卒業を機にやっと役目から解放されたが、正直、やり切った感よりも徒労感のほうが大きい。
その小学校にはPTA以外にも「親父の会」と「子ども会」という組織があり、これらの運営にPTA会費が使われ、会長がまとめ役をするのが慣例だった。
「三つの組織は別組織ですから、責任の所在が違うわけです。PTA会費はPTA活動のためのものですし、きっちりと組織を分けたのです」
男性は会長となり、自分がおかしいと思ったことを改革しようとしたのだ。
さらに、学校との関係も見直した。
「学校が平気で、施設の修繕費をPTA会費から出せと言う。明らかに教育委員会から出る費用なのに。だから、学校の要求を拒否するようにしたのです。おかげで赤字だったPTAの会計が改善し、繰越金が出せるようになりました」
組織の風通しがよくなるよう、無駄を抑えるように改革していく男性だったが、前例踏襲派のメンバーからの攻撃が始まった。
「何でルールを勝手に変えたのかと、袋叩きです。私の発言はねじ曲がって広まり、家に抗議の電話がジャンジャンかかってくるようになり、面と向かって罵倒もされました。役員を務める女性たちは、会議で私を完全無視です。私への誹謗中傷が、校内に蔓延することになりました」
市PTA連合会に、「あの会長はしょっちゅう飲み会をして、朝まで連れ回されて困る」と、根も葉もない苦情まで言われたこともあった。PTA会長の仕事とは関係ない“ボスママ”同士の派閥争いの仲裁役を担わされたこともある。
「会議のたびに役員から傷つくことを言われ、誹謗中傷は止まらないし、精神的に不調が続き、なかなか眠れなくなりました」
村八分状態のうえに、学校側からは御用聞きのような要求ばかり。役員同士の揉めごとも多く、毎日、学校に通った。本業の営業の成績も落ち、社内や妻から白い目で見られるようになった。こんな経験から男性は強く思う。