児童養護施設は、虐待や親の病気などの理由で親元で暮らせない子どもが入所する施設で、全国各地で2万6千人余りの子どもたちが共同で生活している。
進学のハードルとなっているものは何か。児童養護について詳しい大阪府立大学の伊藤嘉余子教授によると、経済的事情以外にも、学習習慣が身についていない子が多く、塾に通うのも難しいことから、「学力」の壁がある。さらに、遊びや出会いのチャンスが少なく、ロールモデルも近くにいないため、将来の夢や大学で学ぶイメージを抱きにくいという理由もあるという。
実際にこの春、大学に入学した前出の横山さんは、こうした壁をどう乗り越えたのか。
「施設では他の子の声が気になることもあるので、昼休みや放課後に1人で図書館で勉強してました。1人でいることには慣れているので、その方が集中できました。授業では最初の10~20分に集中すると、その後の授業の理解がグッと深まる。授業の最初に集中力を切らさないことは意識していました」
学生生活と並行して、コンビニでのアルバイトにも精を出した。学校のある日は4時間、休日は8時間働き、週に5日シフトに入る時もあった。月約6万円のバイト代は、スマホ代以外はすべて貯金に回し、2年半で貯金は約200万円。そのお金があったからこそ、大学に進学するという選択が可能になった。
「高校入学時は、就職か進学かまだ決めていませんでした。でも18歳で施設を出たら絶対にお金は必要になる。自分の選択肢を狭めたくなかったんです」(横山さん)
200万円に加えて資金面で後押ししてくれたのが、冒頭に記した父親からの「学資保険」だった。金額は100万円。父親がずっと横山さんを思いながら、コツコツとためてくれていたお金だった。横山さんは3月上旬、父親との対面を果たした。
「やっぱり、どこか似てるんですよ。話すテンポとか。何か……つながりを感じました。物静かな人でしたが『バイトをずっと続けてがんばっていて、すごいね』とほめてくれました」
そう語る横山さんの表情は、少しうれしそうに見えた。
貯金と学資保険で足りない授業料は、奨学金でまかなう。家賃などを稼ぐためにコンビニのバイトも続けるという。(編集部・深澤友紀、アサヒカメラ編集部・作田裕史)
※AERA 2019年6月3日号より抜粋