長く暮らした施設の自室で。「つらい時も悲しい時も、施設の職員さんが手を差し伸べてくれたから、今の僕がいる」(横山さん)(撮影/小原雄輝)
長く暮らした施設の自室で。「つらい時も悲しい時も、施設の職員さんが手を差し伸べてくれたから、今の僕がいる」(横山さん)(撮影/小原雄輝)
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児童養護施設の子どもを支援する主な大学(AERA 2019年6月3日号より)
児童養護施設の子どもを支援する主な大学(AERA 2019年6月3日号より)

 虐待や親の病気などを理由に親元で暮らせない子どもが暮らす児童養護施設。大学進学には経済面などで大きな壁があり、進学率は低い。この春、進学した学生たちは、その壁をどう乗り越えたのか。

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 18年間、父親はいないものと思って生きてきた。写真を見たこともない。しかし、施設の職員に大学に進みたいと伝えると、こんな事実を伝えられた。

「お父さんが学資保険を用意してくれているようだ。直接会ってみたらどうか」

 正直、複雑な気持ちだった。今まで存在すら知らない父親からのお金……。もらうべきか、返すべきか。悩みながらも、少年はやっとつながった父親との“縁”を切らないことを選んだ。

 この春、城西大学に進学した横山翔輝(しょうや)さん(18)は、5歳から埼玉県にある児童養護施設で暮らすようになった。理由は「両親とは住めなくなったから」としか聞いていない。あえて聞こうともしなかった。だが、小学5年生のときに退所して、家庭に戻ることができた。母、姉との3人暮らし。このままずっと家族と暮らせると思った。だが、結局1年もたずに、また施設に戻ることになった。

 小、中学校の同級生は横山さんが施設出身者だと知っていた。周りから自分が煙たがられるように感じ、積極的に話しかけることはできず、学校では孤立することが多かった。

「中学では、施設の子たち以外の友達は1人もいませんでした。本を読むのは苦ではなかったので、その分、1人で読書していることが多かったです」

 転機となったのは、高校で入部したパソコン部。1年生の同級生2人と共通の趣味であるスマホゲームで意気投合した。その2人から友達の輪が広がり、1人でいることは少なくなった。勉強面では、コツコツと目標をこなす性格が奏功。週1回の小テストをこなしていくうちに、中間、期末テストでも点が取れるようになった。得意科目は世界史で、2、3年生の成績は最高評定の「5」に。5教科全体でも「3.8」以上の成績を取り、昨年12月、指定校推薦枠で城西大学への入学が決まった。

 18歳の春。多くの若者たちが新生活をスタートさせる時期だが、児童養護施設で暮らす若者にとっては、施設を出て自立することが求められる厳しい季節だ。進学を希望するなら学費や生活費も自分で工面する必要がある。ここ数年で国や民間の奨学金が拡充され、自立が難しい場合は22歳まで施設で暮らせるようにもなった。2012~16年に11~12%台だった大学・短大への進学率は、17年に14%、18年に16%と上がってきたが、全国平均の55%と比べると3分の1以下とまだ大きな差がある。

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