永遠に終わらない論争の一つに「犬派」対「猫派」がある。昨今の猫ブームにやや押されがちだが、実は犬派のほうが健康面では優位に立っていることが近年の研究で明らかになっている。犬を飼うことは、高齢者の介護・認知症予防にどのように効果的に働くのか。研究員に話を聞いた。
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「ペットを飼うことでストレスが緩和され、病気のリスクが減る可能性があることはこれまでたびたび指摘されてきました。しかし、実は科学的な検証は十分とは言えず、未解明な部分が多く残っているのです」
こう語るのは、国立環境研究所 環境リスク・健康領域主任研究員(東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員)の谷口優氏。ペットを飼うことで生活習慣が整う、幸せホルモンが分泌される、子どもの成長や教育によい影響を与える、といった話を聞いたことのある人も多いだろう。
しかし、ペットの飼育による健康への効果を示した論文には、海外で少人数を短期間観察した研究が多かったという。
例えば2022年10月に発表された米アラバマ大学の研究によると、犬を飼う人々は飼っていない人々に比べて、脳が最大15歳も若いことが明らかにされた。このことから、認知機能の低下が抑制される可能性があると期待される。
ただし、これは95人を対象とした横断研究。横断研究はある時点で特定の集団から収集したデータを分析・検討する研究手法のことで、「原因と結果の因果関係を示せないことには注意が必要」と谷口氏は言う。
東京都健康長寿医療センター研究所では、都内の高齢者約1万人を対象に3年半の追跡研究を実施。65~84歳の男女に犬猫の飼育経験の有無などを聞く郵送アンケートをもとに、行政データと照らし合わせて介護や死亡との関係を調査した。
すると、過去に犬を飼ったことのある人は要介護や死亡のリスクが一度も飼っていない人に比べ約15%減、現在飼っている人に至っては半減していたことが判明。この傾向は年齢や性別、持病、飲酒や喫煙といった影響を取り除いても変化がなかったという。一方、猫の飼育経験には大きな差は見られなかった。