4日のDeNA戦でも、5打数無安打と快音が聞かれなかった。得点圏に走者を背負った4度目の好機でいずれも凡退。9回1死満塁の5打席目は、鋭い打球が三直とツキにも見放された。この試合で巨人は14安打9得点と打線が爆発して快勝。開幕3連戦で無安打だった新外国人・ブリンソンが3回に来日初アーチを放つなど5打数5安打6打点の大暴れだった。現役ドラフトで楽天から移籍し、オープン戦好調だったオコエ瑠偉も1番でマルチ安打とリードオフマンとして稼働。開幕から16打席連続無安打と打撃不振の坂本が際立つ形になってしまった。
「坂本は基本的にプルヒッターです。逆方向に打つのがうまいだけではなく、外角の球もバットで巻き込むようにして左翼方向に力強い打球を打つ。でも、今は体の力がバットに伝わっていない打ち方なので、弱い打球の内野ゴロが多い。相手バッテリーの配球も外角に偏っている。坂本も打席の立ち位置を変えたりいろいろ試しています。力の衰えでなく、本来の打撃のスタイルを見失っているだけだと思います。昨年はきっちり打てていたわけですから」(前出の他球団のスコアラー)
遊撃のレギュラーを15年間張り続けた選手は、球史でもなかなかいない。松井稼頭央(現西武監督)、宮本慎也、鳥谷敬といった名遊撃手もベテランになると、首脳陣の方針で他のポジションにコンバートされている。坂本の強みは攻守の総合力だろう。松井のように飛び抜けた身体能力があるわけでもなく、若手の時は決して上手な遊撃の部類ではなかった。レギュラーを獲得した高卒2年目時点で比べれば、守備面では若手の中山の方が上だろう。だが、年々上達して球界屈指の遊撃に。打撃も飽くなき向上心で進化し続けた。2016年に打率.344で首位打者を獲得。19年には打率.312、40本塁打、94打点と遊撃としては驚異的な成績を残し、長打率.575はリーグトップだった。20年には31歳10カ月と史上2番目の速さで通算2000安打を達成。30歳を超えた当時も衰えが全く見られない。張本勲氏以来史上2人目の3000安打への期待も膨らんだが、近年は故障が増えて成績を落としていた。他球団の関係者は、こう指摘する。
「坂本の一番の大きな武器は体の強さ。でも30歳の中盤を迎えると体が変わってくるんだよ。昔ならできていたプレーで体が言うことを聞かなくなり、故障してしまう。本人も『あれ?』と思っているんじゃないかな。あれだけ活躍している選手なんだから、普段から体のケアをしていないということは絶対にない。でも体に負担がかかる遊撃は故障のリスクが高まる。技術面はまだまだトップクラスだけど、メンタルの方が心配です。頭で思い描いたプレーをこなせなくなって焦りもあるでしょう。今まで順風満帆に見える野球人生だったから、どう修正すればいいか手探りの部分があるかもしれない」
今季初めてスタメン落ちした5日のDeNA戦。坂本はベンチから声を張り上げ、ナインを鼓舞した。坂本に代わって「8番・遊撃」で出場した門脇誠はプロ初打席の2回にプロ初安打となる左翼線二塁打を放ったが、5、7回の好機では凡退して走者を進めることができなかった。
遊撃のレギュラー争いは続く。坂本は世代交代の波にあらがえるか。野球人生の分岐点を迎えていることは間違いない。(今川秀悟)