
正解の見えない課題に向き合うため、ビジネスの分野でもアートを通じた学びが注目されている。突破口を開くための発想法とは?
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これまで「芸術鑑賞」といえば、大概の人にとって「優雅な趣味」としてしか映らなかっただろう。
ところが、外資系コンサルタントの山口周さん(48)によると、
「欧米では4年ほど前から、グローバル企業の幹部や候補生たちが美術館を訪れ、熱心にアートを学んでいる」のだという。
「世界のビジネスエリートたちが美意識を磨くのは、従来のマーケティングやテクノロジーといったサイエンス重視の考え方だけでは、事業に行き詰まる例が出てきたからです」
昨今の国内大手電機メーカーの業績不振も、この点に一因を見いだせるという。テレビやエアコンといった家電は、多機能化が進み、使用頻度の少ない機能も数多く付いていることが少なくない。そのことがかえって操作性や迅速性といったユーザビリティーを損なっていると、山口さんは指摘する。
「昭和が終わるころまでは、世の中に共通の問題がたくさんありました。その問題を精密にスキャンし、つぶすことで商品の価値が生まれていたのです。しかし現在は、大多数に共通する問題はあらかた解消され、局所的にしか残っていません。そうしたごく一部の要望に応えても、多くの人に訴求する商品にならないのは当然です」
一方で好調なのが、バルミューダや、無印良品を展開する良品計画など、ライフスタイルの根幹から商品を提案・設計している企業だ。市場の細かい問題に対応するのではなく、自分たちの感性に基づく商品やサービスを世に問い、支持を得ていく手法は、ある種アーティスト的ともいえる。
「日本の多くの企業は、問題が豊富で、解決策が希少だった時代の経営手法から抜け出せていません。昔は、問題を解決するテクノロジーさえ生み出せれば商売になった。しかし現代は、解決策が豊富で、問題が希少な時代。現状に対して、自ら問題を見つけ出す力がなければ、影響力のある商品は誕生しないのです」