そこで、問題を発見する力を身に付けるために問われるのが美意識だ。

「要は『こうすればもっと世の中はよくなる』とか『人間の暮らしは本来こうあるべきではないか』と考える意識を持つということ。それを土台として『現状でそれが実現できていないのはなぜだろうか』と考える。そのギャップにこそ、新しい問題とアイデアが生まれます」

 しかし、美意識は一朝一夕で、身に付けられるものでもない。養うことはできるのだろうか。美意識をどう育てるか

 美意識を高める手助けを行う企業がある。アート事業を行うホワイトシップは、2002年から共同創業者のアーティストが考案した創造性回復プログラム「EGAKU」を開始した。現在は、民間企業150社のほか、大学やNPO法人の研修にも採用されるなど、多方面に広がりをみせている。

 代表の長谷部貴美さん(53)は、

「多くの企業が、社員の主体性や課題認識力といった“非認知能力”の育て方に悩んでいるのでは」と語る。

「数値で管理や評価ができないので、どう育てればいいのか経営者もわからないんです。一方、アートの世界では、昔から芸術家たちが『自分は何を表現したいのか』『なぜ生きるのか』といったことを考え続けてきました。絵を描くという行為は、こうした『そもそも』の部分を考える訓練にもなるんですね」

 実際のプログラムでは、最初に「自分が突き動かされるもの」といった抽象的なテーマが与えられる。参加者はその回答をワークシートに言葉で書き、次に色でイメージを広げる。これらを着想のヒントにして、それぞれが1枚のパステル画を描いていく。

 これまで延べ1万5千人以上が参加したが、一枚として同じ絵になったことはないという。

「絵のいいところは、1人で完結できること、可視化されること、そして正解も不正解もないことです。だからこそ、自分の個性や思考のバイアス(偏り)も認知することができます」

 本来、誰しもが心の中に「自分はこうしたい、こうありたい」という自我を持っているはずだ。

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