しかしビジネスの世界では、さまざまな条件や立場に配慮することで、アイデアの独自性が均質化されてしまうこともままある。

「絵を描くのに、そうした前提や制約は一切ありません。逆にいえば、作品を描くためには、自己の内面と真正面から向き合わざるを得ないのです」

「EGAKU」プログラムの参加者で、都内でNPO法人を運営する小沼大地さん(36)は、「自分の描いた絵を鑑賞することで、これまで気付かなかった感情や価値観、チームづくりの考え方が浮かび上がってきた」と語る。

「過去に1度、自分の在り方を見直す宣言のような絵を描いたんです。それをきっかけに迷いが吹っ切れて、自分や組織の構造改革を進められました」

 また、ベンチャー企業を経営する小安美和さん(47)は、ホワイトシップに依頼して、自社の企業ビジョンを言葉ではなく絵で表現し、共有しているという。

「あえて非言語にすることで、発想や事業ドメインを自由に広げられている。アートに内在するエネルギーが、背中を押してくれている気がします」

 美意識とは、美しい絵を見たり描いたりするセンスを指すのではない。長谷部さんは言う。

「心の内側から生じる感覚を信じること。そこに自分なりの美しさを見つけることだと思います」

(ライター・澤田憲)

AERA 2018年12月17日号より抜粋

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