サワークリームは生クリームを乳酸菌で発酵させた乳製品で、欧米では昔から焼いたジャガイモにつけて食されていた。また、ドレッシングや焼き菓子の材料、クラッカーやポテトフライ(フレンチフライ)用のディップのベースとしてオニオンとともに使われていた。これが「サワークリーム&オニオンディップ」である。
つまりジャガイモ原料のポテトチップスにフレーバーとしてサワークリームを採用するのは、彼の国の人たちにとってはごく自然な発想なのである。
なお「プリングルズ」のアメリカでの発売は1968年だが、その10年前の1958年には、フリトー社がギザギザの刃でジャガイモを厚めにカットすることで、ディップをつけても割れず、かつ波型の溝の部分にディップがうまく乗るウェーブカットのポテトチップスを発売した。「ラッフルズ」と名付けられたそのチップスは大ヒットする。
しかし多くの日本人には、ジャガイモにサワークリームをつけて食べる習慣も、ウェーブカットのポテトチップス(1983年にカルビーが発売した「ルイジアナ」など)にディップをつけて食べる習慣もなかった。
つまり「サワークリーム&オニオン」という味は、「プリングルズ」によって日本に持ち込まれ、「プリングルズ」以外の食品にまったく頼ることなく、多くの日本人にとっておなじみのフレーバーとして定番化したのだ。
《朝日新書『ポテトチップスと日本人 ――人生に寄り添う国民食の誕生』(稲田豊史 著)では、「のり塩」や「コンソメパンチ」など、様々なフレーバー誕生の経緯についても紹介。ポテトチップスを軸に戦後日本社会を追う中で、日本が“ポテチ大国”となった要因を紐解いていく》