『正しい女たち』(千早茜著)は、離婚や不倫、セックスといった女性たちの関心事に、人としての「正しい」姿で向き合おうとした人々をテーマにした短編集だ。三省堂書店の新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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他人には語ることのない事柄についての、「正しい」姿が並ぶ短編集。なかでも印象的なのは、4カ月半後に離婚が決まっている男女の、穏やかな日々を綴った「幸福な離婚」だ。
争い傷つけ合うことに疲れきって、最後くらい楽しく暮らそうと決めたふたりには、互いを知り尽くしている心地よさだけが残った。
うまく続けていくことを目的とすれば、離婚という結末は正しくない。結婚という契約を抜きにしても、そもそも彼女のとった行動は、全くもって正しくなかった。しかし、この〈朝と夜の間の、切り取られた時間〉のような、ある意味でとても正しい関係が正しくないことによってもたらされたのなら、正しさとは、全く一筋縄ではいかないものだ。
人として正しい姿だと信じ懸命に近づいた理想は、自分を苦しめてはいないだろうか。
※AERA 2018年7月9日号