「戦後70年余にわたる米軍基地の過重負担によって沖縄県民がどれほど苦しい思いをしてきたか、本土の人の理解があまりに足りない。ヘイトやフェイクで沖縄の声が封じられるのは納得できません」

 平安山さんは沖縄本島北部の本部町出身。琉球大学卒業後、米国留学などを経て、1985年に米国務省職員として在沖米国総領事館に採用された。以来、沖縄で相次ぐ米軍関係者の事件・事故の対応に当たってきた。総領事の傍らでメモを取り、通訳を務める平安山さんは、米政府関係者の一員として県民の抗議の矢面に立つ場面も多かった。「特につらかった」と振り返るのは、95年の少女暴行事件だ。3人の米海兵隊員らが小学生の少女を暴行した事件は沖縄県民の激しい反発を招き、日米政府が普天間飛行場の返還合意に至るきっかけにもなった。

「米軍関係者による事件・事故は一件もあってはならないというのが、当時も今も沖縄県民としての私の考えです」

 平安山さんは今、「沖縄の基地被害を『対岸の火事』としか受け止められない本土の世論感情は今後、一層顕著になる」と予想する。

「沖縄に過度な負担を押しつける安保政策は持続可能ではない。全国でフェアに負担を分け合う基地政策を政府の責任で進めるべきです。『地理的に沖縄でなければいけない』という説明は、沖縄ではもはや、基地の負担を背負いたくない本土側の言い訳としか受け取られていません」

 日米関係は不変ではない。普天間第二小の事故を機に表面化した日米の信頼関係のほころびと、沖縄と本土の感情的なすれ違い。これらは、沖縄だけにあまりにも長く、過重な基地提供の負担を背負わせることで成立させてきた「同盟のもろさ」を暗示しているようにみえる。(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年6月25日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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