どうやら卵の順番問題の派生は、使用する調理器具の変化とも無関係でないようだ。「きょうの料理」のチャーハンの調理器具の変遷を調べると、90年代末までは中華鍋が圧倒的に多かったが、2000年代からフライパンが増え、この10年ほどはフライパン使用が9割を超える。

 今年1月放送の「きょうの料理」で、料理研究家の土井善晴さん(61)が「火と戦わない。中火以下でじっくり焼くチャーハン」を打ち出し話題を呼んだ。チャーハンは強火で短時間に仕上げるという従来の常識を覆すものだったからだ。

 チャーハンといえば“炎の芸術”。料理人が超強火で中華鍋を振り、米や具がパラパラと宙を舞う姿が理想のイメージとして浮かぶ。

 これに対し土井さんは、憧れる気持ちはわかるとしつつも、家庭で真似しようとするのは普通免許でF1マシンに乗るようなもの。プロとは火加減も腕も違う。だから無理をせず、火と仲良くしながらひと粒ひと粒ご飯を焼くのだと説明した。

「焦げにくいフッ素樹脂加工のフライパンならではの作り方だともいえます」(草場編集長)

 料理家の目指す山頂は一緒。家庭の火力の弱さを前提に、山を右から登るか、左から登るか。アプローチの違いが豊かなバリエーションとなり、料理家の個性や味わい、時代がレシピに映し出される。

「きょうの料理」で60年間に作られてきたチャーハンには、おかかとしょうゆの家庭の台所発のシンプルチャーハンがあれば、本格中華の豪華チャーハンもある。小泉武夫さんの「くさやチャーハン」や平野レミさんのコーヒーを使ったユニークなチャーハンも。

「チャーハンって本当に自由ですよね」

 40年近く「きょうの料理」制作に携わってきたフリーディレクターの河村明子さん(70)は話す。どんな具や味つけをご飯に組み合わせるか。そこにチャーハンの一番の面白みと楽しさがある。そう、チャーハンは自由。可能性は無限だ。難しいことなしに、チャーハンワールドを楽しもう。(編集部・石田かおる)

AERA 2018年5月28日号より抜粋