「そもそも福祉への従事者を養成する学校の教育課程において、性のニーズやその支援について学生が学ぶ機会は、ほぼ皆無。しかも、支援の一環として行動すれば困難が予想される問題だけに『寝た子を起こすな』という考え方は、社会には依然として根強くあります」
タブーの中に閉ざされた障害者の性は、健常者からは偏見の目を向けられてきた。かつて福祉や介護の現場では、障害者の性欲を否定する人すらいた。一方で障害者も、障害があるがゆえに、強く自己否定する傾向があったといわれる。
脳性麻痺で車いす生活を送るまゆみさん(35、仮名)は、普通学校に通っていた中学・高校生の時、恋愛に対し「こんな私なんか」と思っていたという。
両手足が不自由なまゆみさんは、できないことにサポートが必要だ。そんな自分を好きになってくれる人なんていない、と。
見た目の印象から奇異な目で見られ、人を好きになるという当たり前の気持ちを抱くことすら否定されたこともある。中学生の時、健常者の同級生に恋愛話をすると、
「バリキモいんやけど。ガイジのくせに」
と笑いながら言われた。ガイジとは「障害児」を意味するネットスラングで、蔑みの言葉だ。その時、何も言い返せず悔しい思いをしたというまゆみさんはこう話す。
「私だって恋心は芽生えてくるし、人を好きになるという気持ちを抑えることはできません。障害があっても好きな人とセックスしたい」
一昨年、まゆみさんは自分を受け入れてくれるかもしれないと思う男性と出会った。だが、セックスの体位が制限されるまゆみさんに、男性は言い放った。
「しょせん、脳性麻痺やな」
自分ではどうしようもできない部分、なおせない部分を言われ、苦しんだ。まゆみさんは、絞りだすように吐露する。
「障害者の性的な感覚は健常者の感覚と何ら変わりありません。障害者は、自身のどこかに困難を抱えてしまっただけに過ぎない人です」
脳性麻痺で言語と運動機能に障害を抱える主婦の大畑楽歩(らぶ)さん(40)は妊娠中、年配の人たちから「身体に障害を抱えていても、ちゃんと赤ちゃんは育つのね」などと言われた言葉が忘れられない。「毎月の生理の処理が大変なら子宮を取っちゃえば」と言われたこともあった。障害者に対する社会の認識の低さに驚くとともに、無意識に人々の心に潜む「優生思想」を感じたという。
「それらの発言は無邪気なまでに悪気はなく、余計に暗澹たる思いが募りました」(大畑さん)
※AERA 2018年5月28日号より抜粋