障害者の性は、タブー視はおろか性欲までも否定されてきた。だが、実情はそうした偏見とはかけ離れている。声なき声を聞いた。
難病の「脊髄性(せきずいせい)筋萎縮症」を患う男性(39)が、性の悩みに直面したのは高校生のとき。24時間寝たきりで、動かせるのは顔の表情と左手の親指だけ。自分でマスターベーションはできず夢精するしかなかった。母親は何も言わず、汚れたシーツを替えてくれたという。男性は振り返る。
「恥ずかしかったけど、どうしようもできないので」
次第に性欲は強くなったが、介助者にマスターベーションを頼めるはずもない。20歳のころ、知り合いの障害者に教えてもらいデリヘルを呼んだ。感激したのを覚えている。
初めてのセックスは20代半ば。知人の障害者に教えてもらった風俗店に行った。以来、風俗店には3、4回。本当はもっと通いたいが、お金の問題や移動の困難さなどがある。今は2カ月に1度ほどデリヘルを呼ぶ。60分で1万5千円。デリヘル嬢がいる時は、介助者には席を外してもらうのだと笑う。お金で「性」を買うことに対してあまり深く考えたことはないというが、
「僕には、ほかに方法がない」
内閣府の「障害者白書」(2017年度版)によれば、身体・知的・精神障害者の数は約859万人。複数の障害を併せ持つ人もいるので単純な合計にはならないが、国民の約6.7%が何らかの障害を有していることになる。
しかし、障害者の性は「古くて新しいテーマ」だ。オランダのように「セックスボランティア」という仕組みがあり障害者の性サービスを自治体が補助している国もある。だが日本では、障害者の性についてのガイドラインもシステムもなく、もっとも私的な問題としてタブー視されてきた。人間らしく生きていくために必要な最低限度の性の健康と権利の確保という「性の自律」は、日本の障害者には保障されていない。
『福祉は「性」とどう向き合うか』(ミネルヴァ書房)の共著がある、淑徳大学総合福祉学部の米村(よねむら)美奈教授は言う。