しかし結局、日本の大学の基礎研究もあまり満足のいくものではなかった。だからスタンフォード大学にポスドク(博士研究員)として留学することにしました。決め手は、カリフォルニアは天気が良くていつでもテニスができるから(笑)。天気の悪いボストンにはまた行きたいとはまったく思わなかった。スタンフォードはハーバードと違ってキャンパスも広いしカルチャーも自由だし、そのままずっといたかったのですが、事情があって2年半ほどで日本に帰りました。そして理化学研究所、筑波大学、東京大学で30年ほど研究を続けました。
このまま日本で、東大で定年かなと思っていたのですが、サバティカル(有給の長期休暇制度)を利用して、スタンフォード大学とイギリスのケンブリッジ大学に半年ずつ滞在しました。そこで日本の大学がこの30年の間に非常に後れてしまったということを改めて認識し、レベルの高い研究をつづけていくには定年前に国外の大学に移動するのが良いのではないかと考えるようになりました。その縁もあって、スタンフォードとケンブリッジ両方からオファーがあってとても迷ったのですが、最終的にスタンフォードに戻ってきて、今日に至っています。
筒井:私も社会学の分野で日本の大学の後れを感じてスタンフォードに留学しました。日本の社会学は理論的に今の社会のあり方や文化を批判的に分析する傾向が強かったので、もっと実証的な研究を身につけたいと思ったわけです。アメリカの社会学はその方法論をしっかり教えてくれます。特にスタンフォードは、今でもそうですが、量的データを使う統計的な分析手法が一番進んでいました。
中内:ケンブリッジ大学は非常にアカデミックです。安易に流行に乗るような研究を馬鹿にし、よく考えて本質を見ることに注力します。サイエンスの場としてはとても良い環境と思いました。日本の大学と比べて設備は見劣りがするのですが、やはりなかにいる研究者たちがすぐれています。サイエンスをやっていくうえで一番大事なのは新しいコンセプトを考え出すことです。それがケンブリッジには理念として根づいています。