筒井:たしかに日本も今、大学発の「知」を資本化しようと頑張っています。大学発イノベーションがどうしたら起業につながって、成功するのか。シリコンバレーのエコシステムにおいて、決定的に大事なのはVC(ベンチャーキャピタリスト)を中心とした豊富な資金だけでなく、中内先生がおっしゃったように人材です。研究者や技術者はもちろん、投資家や経営者がいて、弁護士など外から見ると周辺にいるような人たちも非常に重要な役割を果たしています。
もう一つ大事なのはリスクをおそれない、失敗が許される起業環境でしょう。日本は1回失敗すると「あの人、もう駄目なんじゃないか」というレッテルが貼られがちです。シリコンバレーは「失敗してなんぼ」という感じで、何回も失敗してどんどん成長していく、それをみんなが当たり前と受け止めているところがあります。こういう環境は一朝一夕にはできません。
スタンフォード及びシリコンバレーの仕組みは、長い時間をかけてできあがってきたものです。日本だけでなく、アメリカ国内を含め世界中で◯◯バレーやシリコン◯◯など、いろいろまねをして作っていますが、なかなかうまくいきません。
全部を簡単に取り入れることはできないと思いますが、とりわけ日本においてどういう点がまねできないと感じますか。
中内:最近、私が関係した研究を社会実装するために日本で起業したのですが、すぐれた人材を集めるのがかなり難しい。私の分野に限っていうと、日本では優秀な人材の多くがアカデミアや企業の研究所などの安定した職についているからです。一方、私が何年か前にアメリカで起業した会社には、潤沢な資金のおかげもありますが、成功体験のある本当に優秀な研究者がたくさん集まってきます。「一つ成功したから次の成功を」と考える人が大勢いて、その会社には、アメリカの一流大学の医学部の教授をやっていた人もいます。
ベンチャー企業を立ち上げる人材も、それを発展させるための人材も、日本とアメリカではまだまだ大きな差があります。日本は人集めだけでも非常に大変です。しかも日本は規制が多い。たとえば、遺伝子治療や細胞治療の許認可にはとてつもなく時間がかかりますが、その間に資金を集め続けることはたいへんです。もう私は日本で積極的に起業したいとは思いません。