でも、スタンフォードの大学院にははじめから産業界を目指す優秀な学生がたくさんいます。他の教授に「こういう学生を採っていいのか」と聞いたら、「当然だろう。それが大学の役割だ」という答えでした。考え方が全然違うと強く感じましたが、今ではすっかり慣れました。
ヨーロッパの状況も似ていて、近年はケンブリッジやオックスフォード、フランスやドイツの一流大学の教授たちから「昔は成績の悪い学生が企業に行ったが、今はトップから企業に行ったり起業したりする」と聞くようになりました。こうした大学及び学生の動きは、ある意味で世界のトレンドになってきているのかもしれません。
筒井:日本でも最近、東大の卒業生が安定した大企業や官庁ではなく、ベンチャー企業に入る、起業家になるという動きがかなり増えてきているといわれています。
中内:最近、日本の政府は「お金を出すから起業しろ」などと言うようになりました。大学にも起業をサポートするお金が入ってくるようになっています。世界のトレンドを感じてか、起業したいという学生も増えています。しかし、スタンフォードが決定的に違うのは、どういうふうに起業してそれを発展させていくかということをよく知っている人、実際に経験した人が大勢いるし、それをサポートする人材も、そして資金も比べ物にならないほど豊富なことです。
日本はそういうエコシステムができていません。人材もいないしお金も足りない。たとえば、大学が研究者に「スタートアップを始めなさい」とシードマネー(最初の資金)として多少のお金はくれても、その後はなかなか続かないわけです。
起業して発展させるというつなぎが悪いと、その気になって起業したはいいが、3年でお金がなくなって潰れてしまうといったケースがこれからたくさん出てくるのではないでしょうか。優秀な学生がトレンドに乗って起業して失敗し、アカデミアからも企業からも外れてしまうことを非常に心配しています。