それに対してアメリカの大学の特徴は実利的で、お金がかかってもいいから早く実用化しようというものです。そこはスタンフォード大学もハーバード大学も変わりません。ただし、ハーバードには400年の歴史があって圧倒的な権威があります。スタンフォードは東京大学よりも新しい大学ですが、今や圧倒的な勢いがあります。ハーバードが老舗の大企業だったら、スタンフォードはベンチャー企業という感じでしょうか。私はベンチャーカンパニー的な挑戦する精神と自由さにスタンフォードの発展の秘密があったと考えます。
それと天気の良さ。天気がいいと失敗しても「まあいいか」という気持ちになります。たとえば、論文や研究費が不合格判定された冬。ボストンでは外に出ると雪が降っていて暗くて寒い。ますます落ち込みます。カリフォルニアだと晴れていて暖かい。「なんとかなるよな」と開き直れます。これも失敗をおそれないベンチャー精神に大きく影響していると思います。
私にとってはスタンフォード大学の明るくて綺麗なキャンパスも非常に魅力的でした。環境を良くして良い研究者、学生を集めればより資金が集まり大学の運営も良くなるという企業的な発想なのかもしれません。
■日本の大学に欠けている人材のエコシステム
筒井:日本の大学が後れた理由の一つは、大学発のイノベーションの社会実装、産業移転に対して、大学自身のなかに長く抵抗があったことだと思います。たとえば、最近まで「大学が金儲けに走るのはいかがなものか」などと批判されていました。
中内先生は日本の大学でそういう不自由を感じたことはありますか。スタンフォードと比べてどうですか。
中内:スタンフォードの教授会に出て驚いたのは、大学院生を選抜するインタビューをめぐっての話です。「将来なにをやりたいか」と尋ねるのは日本もアメリカも同じですが、アメリカの学生は「Ph.D(博士号)を取ったらインダストリー(産業)に行く」と平気で答えるわけです。東京大学では、そういう話は決して有利にならなかった。僕自身も優秀な学生はアカデミアに残って、次の科学者、次の教育者として活躍してほしいと思ってきました。東大の博士志望の学生はそんな話はかけらも出しませんでした。