他にも、スタンフォード大学が広大な土地に恵まれていることもあります。東海岸の土地は300年以上根づいたエスタブリッシュメントが牛耳っていて値段も高い。たとえばコロンビア大学もいい大学ですが、これ以上土地をもてないような状況で、新しい施設一つ作るにも非常に苦労する。せいぜい150年くらいの新興の富裕層が活躍している西海岸の土地にはそういう制約が少なかった。現在は地価の高騰や法律上の制約もあり、以前よりは簡単ではないですが、広大な土地を所有するスタンフォードはまだ開発の余地があるわけです。
また西海岸には、東海岸のエスタブリッシュメントに対するある種の反発、反骨心があります。ヨーロッパに近い東海岸がアメリカの19世紀と20世紀半ばまでをリードしてきました。アジアに近い西海岸はそれ以降の新時代のリーダーといえ、東海岸とは違う論理で動くことができます。
こうした特徴、強みによって、アメリカの大学のなかでは東海岸を代表するのがハーバードで西海岸を代表するのがスタンフォードとなっているわけです。
中内先生は筑波大学と東京大学の教授を経て、スタンフォードに来られました。日本の大学でのご経験を踏まえると、スタンフォード大学の特徴はどのように見えますか。
中内:私は横浜市立大学医学部の学生時代、日米学生会議で1カ月ほどアメリカに滞在していろんな大学を見ました。その時に日本よりもアメリカの医学部の教育が圧倒的にすぐれていることにはじめて気づき、なんとかして米国の医学教育を経験したいと思い、スカラシップ(奨学金)をもらって1年間、ハーバード大学の医学部に留学しました。臨床医になるつもりで日本に帰ってきて研修医として臨床のトレーニングをはじめたのですが、日本は卒後研修のレベルも低くハーバードの同級生には全然かなわないだろう、でも基礎研究なら論文で勝負できるかもしれないと思って、大学院で免疫学の基礎研究をはじめたわけです。