わたし自身は総務・人事部門が長く、実は社史の編纂(へんさん)も受け持っていました。育成する人材にはDNAを理解させたうえで新しいことを考えてもらう。これを意識していました。

 富士電機は古河グループに属します。古河鉱業(現・古河機械金属)が銅を掘り、その銅を使って古河電工が電線をつくり、その電線を使って富士電機が電気機械をつくる。こういう親子関係があります。得意分野を見極めて、集中できるように分離独立させる。この集中力がなければ国際競争に勝てません。

 富士電機から情報通信機器に特化して独立したのが富士通です。情報通信は、重電と比べれば経営スピードが格段に速く、半導体の投資も巨額。分離したからこそ、両社とも成功できました。これがグループの特徴で、「スピンアウト経営」と言っています。

 国立公文書館では3月31日~5月6日、明治150年の特別展を開きます。担当には、「明治維新は江戸時代の官僚の力が大きかった。それをクローズアップしてほしい」と頼みました。

 江戸幕府の統治システムや人材育成システムが優れていたからこそ、老中以下、官僚たちがすばらしい知識、見識を蓄えられたと考えています。その基礎のうえに、岩倉使節団が明治4(1871)年から1年9カ月かけて欧米の社会制度や産業技術を視察したのが、すばらしかった。使節団のメンバーが秀才ぞろいで、いいところ悪いところを見聞して、日本の制度につなげました。近代国家の体制があれだけスムーズに、短い期間にできあがった最大の要因です。

 いま開催している企画展「太田道灌と江戸」には反対しました。地味だろうと。しかし、専門官が「やってみせます」と言ったとおり、お客さんがたくさん来ています。幕末・維新ブームだから、逆に中世が受けたのでしょうか。歴史の楽しみ方が広がったのかもしれません。(構成/編集部・江畠俊彦)

AERA 2018年3月12日号