かとう・たけお/1938年、東京都生まれ。61年、東京大学を卒業して富士電機に入る。人事部長などを経て副社長、会長。2013年から現職(撮影/写真部・岸本絢)
かとう・たけお/1938年、東京都生まれ。61年、東京大学を卒業して富士電機に入る。人事部長などを経て副社長、会長。2013年から現職(撮影/写真部・岸本絢)
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 経営者にとって「歴史」は不可欠なものだという。元富士電機会長で国立公文書館館長・加藤丈夫氏が自身の経験から歴史を学ぶ大切さを教えて頂いた。

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 経営者つまりリーダーの条件は「高い志」と「深い教養」です。志は向上心、倫理観、正義感。そして教養は音楽、絵画、文学……どれでもいいのですが、いちばん重要なのは歴史に対する認識でしょう。

 海外の人と食事や交渉をする場面では、いろいろな話をします。わりと話題にのぼるのが歴史や歴史観。何も知らないで話すと、ビジネスにも影響しかねません。相手は最終的に「人」を見ますから、リベラルアーツは非常に役に立ちます。

 昔の経営者は、本をよく読んだ。読書を積み重ねた人は人間的な深み、厚みがあった気がします。わたしに読書を教えてくださった、尊敬する先輩も皮肉まじりに、「経営者も政治家も本を読まない人はだめだね」。なかでも歴史の本が大事。歴史という過去を知ることで現実を直視できる。そして未来を見通せる。

 わたしは還暦を過ぎて集中的に読み始めました。最近感銘を受けたのが『文明としての徳川日本』(芳賀徹)と『日本─呪縛の構図』(R・ターガート・マーフィー)。それぞれ徳川末期以降の文化、社会構造の流れを解説しています。

 一昨年話題になった『応仁の乱』(呉座勇一)には「なぜ、あんな判断をしたのか」「あんな行動をしたのか」という人ばかり。「ヒーローがいない歴史」という見方もあるのですね。わたしは若いころから、幕末の長州藩で奇兵隊を立ち上げたヒーロー、高杉晋作が好きですが。まさに革命児で、才気走った奔放な生き方が気に入っています。

 若い人には「社史を読みなさい」と促します。創業から10年でも100年でも、社史には会社のDNAが詰まっています。

 たとえば、わたしが勤めていた富士電機。会社の生い立ちから得意なのは大型設備などの重電ですが、家電に手を広げて失敗しました。新しい事業に進む、不振の事業から撤退する。どちらも会社のDNAを知らないと間違えます。社外取締役にも、「この会社は、何ができて、何ができないか。歴史から見えてきます」と、社史を薦めます。

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