そんな“置き去りにされた男”の運命を大きく変えたのが、世話人として面倒を見てくれたアイク生原(本名・生原昭宏)氏だった。

 生原氏は「上から投げろ」「前で離せ」「低めに投げろ」「初球でストライクを取れ」の基本4カ条を伝授するとともに、当時のドジャースのエース左腕、フェルナンド・バレンズエラの武器・スクリューボールをマスターするようアドバイスした(自著「山本昌という生き方」小学館)。

 チームメイトの野手がキャッチボールする姿をヒントに、努力を重ねて自己流のスクリューボールをマスターした山本は、連日のように好投し、1Aのオールスターに選ばれるまでに実力をつけた。

 そして、米国での活躍を知った星野仙一監督が、投手陣の駒不足解消のため、急きょ帰国を要請してきた。

 8月末、中日に復帰した山本は、無傷の5連勝で6年ぶりVに貢献。50歳まで現役を続けた通算219勝のレジェンドは「あのとき、アメリカに行かなければ、アイクさんに出会わなければ、その後の投手人生はありません」としみじみ回想している。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら