撮影:石川武志
撮影:石川武志

■怒らせるとEDに?

 電車の中で艶やかな衣装に身を包んだヒジュラが乗客から集めた金を手にしている写真もある。

「物乞いのように見えるかもしれませんが、バクシシーと呼ばれる施しです。日本でいうと、獅子舞がきたときに、ご祝儀を渡すような感じでしょうか。ヒジュラは豊穣の神の使いなので、怒らせると、いわゆるED(勃起不全)なるかもしれないという気持ちが乗客たちにはある」

 ムンバイのヒジュラのほとんどがスラムに住んでいるという。

「ごみ処分場だったころの東京・夢の島にバラックの家をバーッと建てたような感じで、どうすればここまで汚くできるの、というくらい汚い。川の上にトイレが突き出ていて、直接下に落とす。でも、海抜が低いから流れないんですよ」

 スラムでは家と家がくっつくように密集し、部屋の中に日が差さない。ヒジュラの家には家具らしい家具はなく、壁から壁へひもが渡され、そこに色とりどりのサリーがたくさんかけてある。

「伝統的なヒジュラの家では新入りが料理を作ったり、掃除をしたり、年を取ったヒジュラの世話をしたりするのですが、ムンバイのファミリーはそれほどしばりが厳しくないので、家をシェアして一緒に住んでいる感じです」 

撮影:石川武志
撮影:石川武志

 近所では赤いサリーをまとったヒジュラを若者が囲んでいる。ヒジュラをちゃかしているのだという。

「男性からすれば、ヒジュラのお尻を触っても警察沙汰にはならない。本人もちやほやしてくれるのを知っている。なので、ピンナップガールをからかうような感じになるんですよ」

■手術の進歩によって女性化

 近年、美容整形手術の進歩によってヒジュラのセクシャリティーは大きく変わりつつあるという。写真にも豊胸手術を受けたと思われるヒジュラの姿が写っている。性別適合手術を受けたヒジュラもいるという。

「そういう医者がいるんですよ、闇でね。なので、私は女性ですよ、というヒジュラが増えてくると思う」

 かつて中南米にもサード・ジェンダー文化があったが、植民地化によって消滅した。ヒジュラの存在を知ることはジェンダーのあり方を考えるうえで一石を投じることになるのではないか、という。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】石川武志写真展「MUMBAI HIJRAS」
OM SYSTEM GALLERY(東京・新宿) 5月4日~5月15日

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