作家の松本清張(左)は「欲は人間みんな持っている。だから偽物は絶えない」=1982年8月、東京・三越本店で開かれた「古代ペルシア秘宝展」で (c)朝日新聞社
作家の松本清張(左)は「欲は人間みんな持っている。だから偽物は絶えない」=1982年8月、東京・三越本店で開かれた「古代ペルシア秘宝展」で (c)朝日新聞社
「丸福金貨」のレプリカ。本物は現在、入手が困難で、複製品が人気を集めている(フジミント提供)
「丸福金貨」のレプリカ。本物は現在、入手が困難で、複製品が人気を集めている(フジミント提供)

「断捨離」と言われても、なかなかモノが捨てられない。だが、インターネットのおかげで、実家の片づけや引っ越しで出るガラクタにも値がつく時代に。訪日する中国人が、家の片隅に置かれた中国骨董に高値をつけ、メルカリでどんどん遺品整理もできる。タンスの中は、宝の山だ。AERA 2017年9月25日号では「お宝流出時代」を大特集。

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 古今東西、美術工芸品の贋作は後を絶たず、雲をつかむような宝探し話が湧いて出る。欲は、人の心をかき乱す。一攫千金を夢見て、今日も誰かが騙される。

*  *  *

 都内の堅牢なビルの地下にある、巨大な貸倉庫。温度や湿度も含めた厳重な管理のための二重扉をくぐって案内された先にあったのは、16世紀の欧州画壇の巨匠の手によるという触れ込みの、晩餐風景を描いた宗教画。「最低10億円」という言い値で買い手を探しているという所有者は、1973年にニューヨークで発行されたという英字の鑑定書を手に価値を力説していたが、古びてくすんだキャンバスからは、素人目にも訴えかけるメッセージが感じられなかった。

 古今東西、美術工芸品の贋作は後を絶たず、世を賑わせた事件も数多い。大半が贋作と判明し、当時の岡田茂社長の解任にまで発展した三越本店の「古代ペルシア秘宝展」(82年)をはじめ、自治体や美術館を巻き込んだ贋作事件など枚挙にいとまがないし、おそらくいつまでたってもなくならない。

●超一流画家の贋作製作

 冒頭のエピソードも、筆者が仲介者から相談を受け、取材の一環として実際にこの春体験した出来事だ。父親が債権として債務者から差し押さえた絵を遺産として相続したものだといい、約40年前には有名百貨店でその絵が展示され、それを報じた地方版の新聞記事まであった。それを機に債務者は当時3億円で購入した後は一度も展示会等に出品しなかったというが、真偽は定かではない。鑑定書に記載のある当時その絵を取り扱っていた日仏のギャラリーは既に存在せず、確認すらとれない。それでも巨匠の真作として自信があるなら、オークションに託せばいいだけだが、そうもできない事情があるのだろう。

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