「科学鑑定は時間もかかるし、人間の頭脳のほうが瞬時の判断に優れています。そのためにはひたすら本物のいい作品を見るに尽きる。絵だと、贋作者の『似せよう』という欲が、オリジナルの作家のいいところを盛り込み過ぎる傾向がある。焼き物などはまねようと力が入っているから、硬くぎこちなく見えます。いいものを知っていれば、贋作に出合ったときに、些細な色の違いやタッチに違和感を覚える。ただし、科学の力の手助けが必要な場合ももちろんあります」(石坂さん)
市井の画商たちは、どういう対策を講じているのだろう。
「誰しもババをつかみたくないから、画商同士で贋作の情報交換はよくします。骨董や日本画、洋画、さらに作家ごとなどそれぞれ得意分野があります。私は縁あって藤田嗣治の作品を目にする機会が多かったので、持ち主が5万円程度で手に入れて『偽物』と思い込んでいたデッサン画を真作と見抜いて、結果的に30倍の値段で買い手を見つけて感謝されたこともあります」
10年ほど前まで都内で主に現代美術を扱っていたという60代の元画商は、こう往時を振り返り、さらに驚くべき体験を打ち明けてくれた。
バブル時代のオークション会場で、米国の有名美術館が出品していた印象派の作品に、友人のドイツ人画商が疑義を唱えたところ、オークショニアから「これ以上深入りするな」と釘をさされたという。
●無からカネを騙し取る
「アメリカが好景気のときに欧州の画商から高く買って持っていたのでしょう。名作なら手放す理由が考えにくいので、ババ抜きしようとしたんじゃないですか。結局その絵は日本の企業が落札しました」
その後論じられる機会のなかったその作品の真贋は、神のみぞ知るだが、ビジネスとして成立したのは事実だ。しかし、全くの無からカネをだまし取ろうとするM資金詐欺の類いと、旧日本陸軍の山下奉文大将が敗走中にフィリピンに隠したとされる「山下財宝」探しが戦後70余年経ってもなくならないのは、欲深な人間の業のなせるわざか。