九州からの南下にも目配りはしている。海部氏は「仮に九州から南下してきたとすると、今度は黒潮に逆行して移動することになる」と一層の困難性を指摘し、だからこそ「今わかっていることからすると、台湾からの北上が一番リーズナブルで、どちらかといえば簡単なルート」というわけだ。
計画は2013年に動き出し、16年度からは「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」としてスタートした。メンバーは人類学や海洋民族学、海底地形学、古海洋学、植物学の研究者のほか、冒険家や探検家、与那国島の関係者など現在は20人余り。漕ぎ手には、星を使った航海術(スターナビゲーション)の経験者らも加わっている。17年からは国立台湾史前文化博物館(台東市)が共催し、台湾側からプロジェクトをサポートする。
●GPSをつけた草舟で
16年7月には南西諸島の端、台湾に最も近い与那国島から西表島への航海を試みた。与那国島に自生するヒメガマを使った2艘の草舟によるこの航海は、予想していたルートより大きく北へ逸れるなどしたことから、出発から約8時間後、26キロ進んだところで伴走船による曳航が決まった。2艘の草舟にはデータ解析用の全地球測位システム(GPS)が装着してあり、そのデータを解析した結果、プロジェクトチームは「海況条件のよい日であれば西表島へ到達できた可能性の高いことを示している」と結論づけている。
このプロジェクトと相前後するようにして、南西諸島にある旧石器時代の遺跡からは注目すべきニュースが発せられている。
沖縄県立博物館・美術館(那覇市)は昨年9月、サキタリ洞遺跡(同県南城市)で12年8月に見つかった貝製釣り針が約2万3千年前のもので、東ティモールのジェリマライ遺跡で発見されたものとともに世界最古であると発表した。同遺跡のある南城市は沖縄本島南部に位置する。人類がこの場所に到達した時期はと言うと、さらに1万年以上古く、3万5千年前ごろまでさかのぼれるという。食糧と考えられるモクズガニやカワニナ、焼けたシカ化石の分析から得られた結論である。