「ある程度のところまでいくと、10万円単位でお金が飛んでいきます。一括ではキツイ。『みんな、毎月お金を積み立てて用意してるの』なんて話を聞かされても、そんなお金、ありません」

 負担は費用だけではなかった。免状取得後は「お茶会」へ参加。秋から春のシーズンはほぼ毎週、お茶会。参加するには毎回「お茶チケット」が必要で、1席500~1千円。「初釜」になると1万円。さらに、「水屋の手伝い」「お運び」要員になることも。「お茶碗」「お茶」「お茶菓子」の名前を覚えなくてはならない。勉強会や関連行事への参加も当たり前にあった。

 加えてお茶会はほぼ和服。洋服で参加したこともあったが、生徒のいでたちが先生の格を左右する。自分の都合で洋服にはできなかった。

「金はかかるわ、時間も取られるわ、身支度に手間がかかるわ。これは年齢に関係なく、茶道をしている人が一度は通過する関門です。気軽に続けたいのですが、こういう『しがらみ』が出てくると続けられません」

●婚活は趣味で差別化

 それでもやめると言えなかった。先生も先輩方もみんないい人だし、お茶も好き。今度こそと思うたびに、みんなの笑顔が頭をかすめては消えていく。

「あぁ、もうやめさせて~」

 悩んでいるところに、運良く転勤の話が舞い込んだ。シミュレーションを何度も繰り返し、やっと先生にやめたいと伝えられた。

「茶道は年配女性の宝庫、いや、倉庫です。茶道界では40代なんて未熟年代、60代でも若い。こんな、おばはんばっかりの世界におったら、結婚も出会いもあらへんでーという思いもあり、踏ん切りをつけました」

「ご趣味は?」。婚活の場に趣味圧は頻出する。婚活アドバイザーの大西明美さんによると、特にここ1、2年で婚活のマッチング成功のために「趣味」を偽装する必要性が飛躍的に高まったという。さまざまなお見合いサービス業者の持つデータベースがここ数年で一気に共有化され、選べる母数が拡大した。その結果、ごく一部の高年収の男性に人気が集中するようになり、この輪に入れない男女がマッチングに至るためには「趣味」をきっかけにするしかなくなった、と大西さんは言う。

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