山内町長を会長に「島前高校魅力化プロジェクト」が発足し、教育改革に着手する。そのひとつが冒頭の「島留学」だ。そして今度はその留学生が、島の子どもたちを刺激するという好循環が生まれた。例えば、中学生の時は「消極的だった」という2年生の亀谷壮大さんは、いまや島留学生と一緒にバンドを組み、自分で作詞作曲。オリジナルソングを文化祭などで演奏するようになった。亀谷さんは島留学生のことを「新しい扉を開ける鍵のような存在」と話す。
●島出身者の意識も変化
魅力化プロジェクトは多様な広がりを見せ、全国でも珍しい公立塾「隠岐國学習センター」も設立。プログラムもユニークで、月1回開かれる「夢ゼミ」では、1年生は1年かけて一冊の雑誌を作る。もちろん自ら企画し、取材、撮影、執筆、編集までする。2年生はいくつかのチームに分かれ、それぞれのプロジェクトに取り組む。取材当日やっていたのは島の通貨「ハーン」を流通させるプロジェクト。出し合ったアイデアを付箋に書いて模造紙に貼っていく。スタッフとともに講師としてゼミを指導している、海士町役場総務課の濱中香理さんも「大人ではできない発想が出てきて、私たちも参考になります」と舌を巻くほどだ。
自分たちにしかできない仕事や課題を自ら見つけて行動を起こす。まさにこれからの時代に必要な力を、同校の生徒はつけてきているのだ。
隠岐島前高校では15年、地域で育んだ課題解決のスキルを、地球規模での課題解決に生かすべく、離島にある高校としては初のSGHの指定を取得。いまや8カ国と交流を持ち、ブータンやロシアなどから留学生も受け入れている。逆に生徒がブータンやエストニア、ロシアへ出かける研修プログラムもある。3年生で生徒会長の伊藤圭那さんは、昨年ブータンを訪れ、同世代がいる家庭にホームステイした。伊藤さんは言う。
「女子高校生が国王を崇拝し、伝統的な暮らしを大切にしていた。なぜかと尋ねたら、周辺国に侵略されても伝統文化を守っていれば国は滅びないと。同じ世代の子がそんなことを考えているなんて驚きました。中学までずっと島を出たいと思ってましたが、私たちが島の文化を継承しなければと考えさせられた」
冒頭で紹介した「探究活動」の成果も、11月にある2年生全員参加のシンガポール研修で、シンガポール国立大学の学生にプレゼンする予定だ。もちろん質疑応答もすべて英語だ。
島内外の多様な人々とのコラボレーションで培ってきた力は、同校の生徒が、未知の世界にチャレンジしていくうえで大きな自信になっていくに違いない。(ライター・柿崎明子)
※AERA 2017年6月5日号