和やかな調子で面接は始まった。通常の中途面接のように人柄や実力を試すような質問はなく、過去の退職にも特に触れられなかった。藤田さんが時間を費やしたのは、起業して身につけたアプリ開発技術やデータ解析会社で培ったAI関連技術など、エキサイトの外で培ったものをいまのエキサイトにどう生かせるかを説明すること。

「出戻るからには『退職した時と同じ自分ではまずい』というプレッシャーがありました。せっかく戻るなら、“お土産”を持って帰りたいですから」

 再入社後はディープラーニングの技術を組み合わせたレコメンドシステムを開発し、新規ビジネスも生み出した。

●コストも抑えられる

 エキサイトと藤田さんを再び結びつけたのは、14年から採用拡大の一環としてスタートさせた社員からの人材紹介制度。人事担当の高橋直美さんは言う。

「出戻り促進の制度ではないんですが、始めてみたら元社員を紹介してくれる人が多かった(笑)。ただ、結果オーライ。元社員は定着率も高いんです」

 IT企業では、エンジニアの採用争奪戦が激化。採用強化のため同様の制度を設けている企業は多い。中には紹介した社員に50万円以上の謝礼金を支払う企業もあるという。それでも、エージェントへの成功報酬より安く、コストを抑えられる。

「エキサイトではできないことをしたい」と一度は会社を飛び出した藤田さん。今度は本当にやりたいことができてますか?

「仕事なんて、作ろうと思えばいくらでも作れる。当時は、このことに、自分が気がついていなかっただけでした」

(編集部・市岡ひかり

AERA 2017年5月22日号