圧巻は、何といっても「扇形車庫」(国の重要文化財)に並ぶSL。転車台の奥におよそ20両のSLがこちらをにらむようにズラリと並んで壮観だ。

 梅小路運転区総括助役の長澤浩一さんは言う。

「SLの検査修繕には熟練の技が必要。技術の伝承にも力を入れ、今は若い人も育っています。16人いる作業員のうち5人は30代です」

 検査修繕は、同館のオープンより少し前に完成した検修庫「SL第2検修庫」で行っている。そこでは「デゴイチ」の愛称で知られるD51形の本線復帰を目指し定期検査の真っ最中。今年4月頃には作業を終え、走行試験の後、本線運転を復活するという。入館者の多くは家族連れだが、若いカップルの姿も。この「鉄の聖地」は、3月4日に来館者数130万人を突破した。初年度は120万人の来館を見込んでいたが、当初の予想を上回るペースだ。

 しかし、「博物館として真価を問われるのは2年目です」(同館)と先行きを楽観していない。まったく同じ内容だったら必ず飽きられてしまうからだ。同館では1周年を記念し、様々なイベントを仕掛けていく。SL第2検修庫一般初公開(4月29、30日)をはじめ、500系新幹線の車内初公開(~4月9日および4月の土・日・祝日)、駅弁大会(5月3、4日)など、毎週末何らかのイベントを開催する。

 上田さんは言う。

「日本の歴史における鉄道がどのような役割を果たしたのか学んでいただきたい。だけど、個人的には、『楽しかった』『また行きたいねえ』と思っていただければうれしいです」

 同館に入社して2年。大学院でバイオテクノロジーを学び将来は研究者になろうと思っていたが、SL好きが高じて、同館に来たという変わり種だ。

「機械の塊が力強く走る姿が好きです」

 そう熱く語る。

 鉄道を愛する気持ちと遺産を後世に伝える使命──。鉄道博物館で働く職員一人ひとりの思いが、宝箱のような空間を作り上げていく。

(編集部・野村昌二、塩見圭)

AERA 2017年4月10日号

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら