AERA2017年2月20日号から3回連載した「みんなの知らない出産」には多くの反響が寄せられた。生まれた子どもがNICUに入院した経験について触れた声も多かった。今回は、必死に生きようとする赤ちゃんの命の現場、NICUの物語。
深夜2時。寝室にアラームが鳴り響く。隣で寝る夫を起こさないように、すばやく布団から出ると、搾乳器を手元に引き寄せた。
千葉県内に住む女性(36)の赤ちゃんは新生児仮死で生まれ、NICU(新生児集中治療室)へ搬送された。女性は冷凍母乳を届けるため、3時間ごとに母乳を搾る。
夜中に搾乳していると、涙が溢れる。他のママたちは、赤ちゃんの泣き声で起きて、直接おっぱいをあげているんだろうな……。
スマートフォンの画面に映る入院中の我が子を見て、涙を拭う。今、母親の自分にできることはこれしかない。搾乳と器具の消毒に約1時間。2時間後には、また次のアラームが鳴る。
この世に命を授かることができても、生まれつきの病気や早産、お産で調子が悪くなったことなどが理由でNICUでの治療が必要になる赤ちゃんがいる。その割合は約30人に1人と言われ、多くの母親が、元気に産んであげられず赤ちゃんに痛くて苦しい思いをさせてしまっていると自分を責める。後遺症への不安も消えない。こうした心の負担に加え、体への負担も大きい。
●明日が来るかわからない この子の命を見守りたい
冒頭の女性も、産婦人科の退院翌日から自分で車を運転し、往復1時間かけて1日2回、NICUへ面会に通った。面会は午後と夜に計5時間半。搾乳にも1日8時間かかる。産後1カ月は安静にしたほうがいいと言われるが、そんな時間はない。赤ちゃんと離れていても、搾乳で夜も満足に寝られない。悩みを共有できるママ友もいない。心も体も追い込まれていった。
横浜市に住む安原幸子さん(41)も7年前に次男・遼君がNICUに入院中、孤立感を深めていったという。