神奈川県に住む宮本心さん(36)は出産予定日より3カ月以上も早く破水し、同センターに運び込まれた。医師からは、このまま生まれると、命は助かっても子どもに何らかの障害が残る確率が50%以上だと言われた。
少しでも長くおなかにいさせてあげたい。病院のベッドの上で一日中時計の針を見つめていた。入院して3日目、赤ちゃんのしゃっくりを胎動で感じた。横隔膜や肺ができ始めたのだと涙が出た。その4日後に実ちゃんを出産。「生まれちゃった」と思った瞬間、医師たちの「おめでとう」の言葉に救われた。
現在は2歳の長男を院内ボランティアや近くの保育預かり施設に預けながら、往復2時間かけて面会に通う。赤ちゃんがそばにいないことやストレスからか、一時期母乳がほとんど出なくなった。相談に乗ってくれたのが、助産師でもある布施明美看護科長(56)だ。背中をさすられ、話を聞いてもらううち、気持ちが軽くなった。再び出るようになった母乳は、冷凍庫に入りきらないほどになった。布施さんは言う。
「自分のせいだ、と思い詰めるお母さんもいますが、誰も悪くないし、世界に一つの命が誕生したことに意味があるとお伝えします。赤ちゃんやお母さんの頑張りや声なき心の声を聴き、その思いをご家族に伝え、ご家族が赤ちゃんを大切に迎えられるよう支援することも、NICU看護師の役割だと思っています」
日本の小児医療は世界トップレベルの救命率を誇る。国連児童基金(ユニセフ)の「世界子供白書2015」によると、日本での5歳未満の子どもの死亡率(13年の推定値)は1千人あたり3人で、世界で下から2番目の数字だ。数百グラムで生まれた子も救命できるようになったからこそ、豊島勝昭新生児科部長(48)は「NICUは命を救うだけに留まっていてはいけない」と言う。
「ご家族を置き去りにせず、親御さんも参加していると思えるチーム医療を目指したい。なぜなら、赤ちゃんの生きる力や頑張りを感じ、見守った日々が、退院後に社会の中で生きづらさを感じたときに、家族で乗り越える力になっていくと信じているからです」