その言葉に背中を押されて産婦人科へ行くと、赤ちゃんの心拍が弱っているからとすぐ緊急帝王切開。息子に障害は残ったが、命は助かった。
昨年、いい加減な医療・健康情報を掲載していたとして、インターネットサイト「WELQ」をはじめ、いくつかのサイトが非公開になったが、母子ともに命の危険と隣り合わせの出産についても無責任な情報が蔓延している。
聖路加国際病院女性総合診療部医長の山中美智子医師は警鐘を鳴らす。
「命を産み出すためには、奇跡ともいえるような生命現象の連続が体内で起きている。母親がそういう意識で、正しい知識を持たなければ赤ちゃんを守れないことがある」
ネットの情報は玉石混淆だ。国や公的機関、学会など信頼できる情報源をあたるか、分娩を扱う医療施設は通常24時間対応なので、まずはかかりつけ医に相談することが大切だという。
ただ、経過が順調な妊婦は、大切な情報や悲しい経験談に触れることがあっても「私は大丈夫」「自分には関係がない」と、目を背けたくなりがちだ。また、自分に都合よく解釈して、安心してしまうこともある。
●妊娠に「安定期」はない
マタ旅にひそむリスク
ここ10年ほどの間に一般的になってきた「マタ旅」(マタニティー旅行)。妊娠した芸能人のブログがブームのきっかけといわれ、2014年には温泉法の禁忌症が見直されて妊婦の温泉入浴も解禁。旅行会社のサイトでは「妊婦にやさしい宿」などが特集され、専用プランを設ける宿泊施設も増えている。妊婦側も、「夫と2人の最後の旅行がしたい」「出産後は子育てでそれどころじゃなくなるから」といった理由で、「マタ旅」を計画する。
楽しい側面が強調されるマタ旅だが、リスクに触れる情報は少ない。
千葉県内の女性は、15年秋、静岡へ旅行中に出血。近くの病院を受診し、翌日陣痛がきて出産した。まだ妊娠25週。赤ちゃんは1千グラム未満で、現地のNICU(新生児集中治療室)に入院した。
妊娠25週といえばいわゆる「安定期」だ。しかも、旅行1週間前の妊婦健診では、内診して異常が見られなかったという。
ただ、佐野産婦人科医院(千葉県浦安市)の今野秀洋院長はこう指摘する。