●コンセプトを売る

 マリメッコの特徴はあるけれど、そこに埋没することなく、ひとりひとりのデザイナーが、自分のアイデアを出し切るスタイルこそが、人々から支持されてきた理由なのだろう。

 79年に、マリメッコの顔だったアルミ・ラティアが亡くなると、マリメッコは新しいステージに進むことになる。

 マリメッコのプリントモチーフがマグカップなどに使われることは70~80年代にもあったが、2000年代に入ってからは、マイヤ・イソラの「ウニッコ」などがさまざまなテーブルウェアにも使われ、商品の幅が広がっていく。

 同時期に、いまや「歴史」を持つまでになったマリメッコが、過去に発表したプリント・ファブリックへの関心も高まってきた。01年からは服にも採用されるようになったが、その際、服に合わせてモチーフのサイズを縮小する必要も出てきた。

 会場の入り口近くの壁面の様子を思い出してほしい。黎明(れいめい)期のマリメッコにとって、驚くほど大きなモチーフは、アイデンティティーと呼ぶべきスタイルだったのだ。

 日々の暮らしで目にするデザインは無意識のうちに私たちに影響を及ぼしている。かつて、創業者のアルミ・ラティアは
「マリメッコとは何か?」という問いかけに対して、こう語っていた。

「マリメッコが売っているのはファブリックではなくコンセプトそのもの。私たちが採用する色やデザインは個性なくしては成立し得ない。これもマリメッコ特有で、ある種の聖域に属することなのです」

 マリメッコの歴史と未来がわかる展覧会。お気に入りのオリジナル作品に出会ってほしい。(ライター・矢内裕子)

AERA 2017年2月6日号

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