●予防効果も期待
人間やマウスの場合、腎機能が低下すると、尿の中にAIMが混ざって検出されるようになる。それは、AIMが活性化して血液中で他のタンパク質から分離し、尿の通り道の老廃物に付着して“掃除”をしてから尿に排出されるためだ。
ところが猫の場合、腎機能が低下しても尿からAIMは全く検出されない。宮崎教授が研究を進めると、猫には人間やマウスよりも血液中にAIMが多く存在するにもかかわらず、腎機能が低下しても他のタンパク質と結合したまま活性化せず、老廃物の除去機能が働かないことがわかった。
一方で、活性化したAIMを猫の体外で大量生産して血液中に投与すれば、腎機能改善につながることを立証した。
猫のAIMをつくるように遺伝子操作した「ネコ型マウス」は、急性腎障害を誘発させた後、放置すると3日後までに腎機能の悪化で全て死んでしまった。だが、通常マウスのAIMを静脈注射した「ネコ型マウス」は腎機能が改善し、5日後までに7割の生存を確認したのだ(英科学誌「Scientific Reports」電子版に16年10月12日付で掲載)。
前出のアニコム損保の調査によると、猫の泌尿器疾患のうち、腎臓病の罹患率が急激に上昇する年齢は6歳以降とのデータがある。
宮崎教授はこう指摘する。
「治療だけでなく、5、6歳ごろから予防注射のように年1回でも定期的に投与しておけば、予防効果も期待できます」
同損保によると、猫の平均寿命はオス14.3歳、メス15.2歳(11年4月1日~12年3月31日までの間に、同社の保険に契約登録した猫3万9565頭の調査から)。
●「教科書を書き直す」
「AIM投与の実用化によって猫の平均寿命が延びるかどうかまではわかりませんが、健康寿命は間違いなく延びるでしょう」
そう話すのは、宮崎教授の研究を猫へと導くきっかけをつくった、獣医師の小林氏だ。
仮に、これまでなら10歳で腎不全が発症していたのを、AIM投与によって13歳まで発症を先延ばしできれば、天寿までゆっくり命の坂を下ることができ、猫の苦痛だけでなく、みとる飼い主の精神的苦痛も和らぐ。それは、愛猫の死に直面して深いペットロスの症状に陥るリスクを低減し、「こんなつらさはもう味わいたくない」という思いよりも、「また猫と暮らそう」という意識を持ちやすくなる。そうした循環が、ペットを取り巻く環境の改善にもつながるはずだと、小林氏は期待を寄せる。
そして、こう強調する。