「宮崎先生の研究は、教科書を書き直さないといけないぐらい画期的なこと。ペット業界全体の世界観をデザインし直す意気込みで向き合う必要があります」

 獣医師の経験則では、「10歳前後になると、の腎機能は低下する」との認識が定着しているという。それは「病気」と定義できるが、老化による自然現象という考え方も、獣医師の間には浸透している。もし医療で対処できるとすれば、その影響は獣医師界にとどまらない、と小林氏は言う。

「現在流通している腎不全に対する薬やフード、サプリメントの需要にも少なからず影響を与えるでしょう」

●人への応用も視野に

 宮崎教授は製品化に向けて民間企業と提携し、高純度のAIMを大量生産する準備を進めている。製造工程はこれまでの研究で確立されているという。

 動物用医薬品として製造・普及するには農林水産省の認可を得なければならない。獣医師の理解と協力を得て、認可に必要な治療効果を裏付けるデータを集めようとしている段階だ。実用化の目標は「2020年の東京五輪開催まで」。さらに、人への応用も見据えている。

「人間にも猫にも使える薬を開発するつもりです。猫のほうが早く治験結果が得られるはずですので、猫用の実用化が早いと見ていますが、同時に人の治験も進めていきたい。これまで治らないとされていた腎不全の治療が可能になると、人工透析も不要になります。患者さんにとってすごくハッピーなことです」

 猫に始まる夢の治療法の確立は、人間の未来にも大きなインパクトを与えそうだ。

 京都大学の山中伸弥教授が、iPS細胞研究でノーベル医学生理学賞を受賞し、一躍脚光を浴びた再生医療・細胞治療。日本が世界に誇る最先端医療は、犬や猫などペット治療の現場にも本格導入されつつある。

「我々はあくまで再生医療・細胞治療の実用化を目指しています。全国の動物病院への普及が最終的な目標です」

 そう話すのは2016年10月、横浜市内に実用化拠点を開設した「セルトラスト・アニマル・セラピューティクス株式会社」(以下、セルトラスト社)の牧野快彦社長だ。

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